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宮島未奈さん「婚活マエストロ」 前作から一転、大人の青春「40歳からでも変われる」

宮島未奈さん

 デビュー作の青春もので今年の本屋大賞受賞というスタートをきった宮島未奈さん。新刊小説「婚活マエストロ」(文芸春秋)は大人の青春を描いて、読み心地さわやかだ。

 静岡県浜松市に暮らす40歳の猪名川健人は、ウェブライターとして細々と生計をたてている。零細婚活会社の紹介記事を頼まれ、パーティーに赴くと、司会者は婚活マエストロと呼ばれる名物女性。不思議な力をもっていた。

 婚活パーティー参加者がだれもかれもユニーク。テンポよいタッチに笑えて、ほろっとして、宮島さんの術中にはまってしまう。「私の小説は、子どもにも、だれにでも楽しんで読んでほしいんです」

 そんな出会いを求める人たちの話に、人生の機微が織り込まれる。出会いによって自分の世界が広がったという、宮島さんの実感がにじんでいるそうだ。「作家になって、編集者と東京で食事するようになって。これも一つの出会いで、それまでなかった経験ですから」

 全国にあるチェーンのレストランが大切な舞台となったり、琵琶湖のミシガンクルーズが登場したり。地方都市の雰囲気を出す演出も心憎い。「どこの地方でも広く共感をもって読んでもらえたらと思います」

 婚活マエストロの鏡原奈緒子は猪名川と同い年。不思議な能力があるとはいえ、衰えを感じて悩む。

 「まだまだ若いけれど、無理がきかなくなる年ごろなんですよね」。同世代の実感をこめ、等身大の女性として描き出した。

 猪名川と鏡原はシニア向け婚活パーティーなどでいくつもの出会いを見守り、仲立ちし、翻って自らの生き方を見つめていく。

 「40歳からでも変われるんだと伝えたい」と話す。「大人になると夢をあきらめる人もいるけれど、変化が訪れるかもしれない。それはステキなことだし、楽しいよねって思いたいですね」

 結婚して滋賀県に暮らし、あきらめかけた作家の夢をもう一度取りもどした宮島さん。「成瀬は天下を取りにいく」で本屋大賞を受賞し、人生が大きく変わったのが40歳だった。その思いが今作に重なる。

 執筆の求めが次々舞い込む。今回は婚活をテーマにという編集者のリクエストにこたえ、連載にチャレンジした。新刊ができあがり、「すごくうれしい。成瀬以外に書けたことが自信になりました」と笑顔いっぱい。成瀬シリーズは次の3作目で一休みする予定だ。

 成瀬から婚活マエストロへ、そしてこれから。「どんどん新しいものを書かないと、と思わせてくれる作品になりました」(河合真美江)=朝日新聞2024年11月6日掲載