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未来の状況を高解像度でシミュレーション「AIとSF 2」 吉田大助が薦める文庫この新刊!

  1. 『AIとSF 2』 日本SF作家クラブ編 ハヤカワ文庫JA 1496円
  2. 『残月記』 小田雅久仁著 双葉文庫 935円
  3. 『両手にトカレフ』 ブレイディみかこ著 ポプラ文庫 858円

 AIがテーマのSF短編アンソロジーの第二弾(1)は、巻頭に収録された長谷敏司「竜を殺す」からフルスロットルだ。二〇三六年の日本を舞台に、AIが社会に深く根付いた様子をシミュレーションする本作は、もしも息子が殺人犯になったらどうするか、という父親の心情もまた高解像度でシミュレーションしていく。自暴自棄となった高校一年生の息子に対して、ストレスケアに長(た)けたAIではなく、家族だからこそできることとは何か。そこには、愛とは何か、人間はなぜ物語を語るのか、という問いの答えも記録されている。

 月をモチーフにした作品集(2)の第一編「そして月がふりかえる」は、ある晩突然、家族四人のうちの自分だけ、パラレルワールド――月の裏側が表を向いている世界へと移動してしまった男の物語。同姓同名の別人として生きることを余儀なくされた男が、もう元には戻れないと知りながら、家族の中で唯一話が通じる可能性のある妻に一つだけ頼みごとをする。その場面で現れる、「人間ってそういうもんじゃないのか?」という一言が胸に響く。

 (3)はイギリスの片田舎で、ドラッグ中毒の母、幼い弟と共に暮らす十四歳の少女を主人公に据える。百年前の日本に実在したカネコフミコの自伝を読み、自らの境遇をラップの歌詞に綴(つづ)りながら、「ここじゃない世界」を夢想する日々。家族という概念を拡張することで現れる結末に、希望を見た。

 家族、愛。ありふれた言葉の意味と重みを、物語を通して感じ直したい。=朝日新聞2024年11月30日掲載