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羊の目。「おひさまとえんぴつ」 濁りがない、温かな交流と成長

『おひさまとえんぴつ』 羊の目。〈著〉 実業之日本社 1430円

 生まれつき耳が聞こえない沙希(さき)の将来の夢は世界的な大作家になること。そんな彼女とお姉ちゃんの姉妹の絆、周囲の大人や3年1組のクラスメイトとの温かな交流と成長を描く物語だ。

 妹の耳が聞こえないと知った時の姉の行動にまず鼻がツンときた。人は不測の事態に陥ると、まだ目の前に立ち現れていない未来を妄想して不安に陥りがちだ。しかし、姉の行動にはそういった濁りがない。妹の夢に繫(つな)がる贈り物のエピソードも素敵で、目の前がパッと開けたような気持ちになった。

 最初は沙希をからかっていた少年の多感な心の内と変化、そのきっかけを与えた担任の頼もしさも刺さった。本作に登場するのは聞こえる人と聞こえない人だが、そこに傾斜はない。どうすれば沙希の困りごとを取り除けるかを考える人が、沙希によって救われたり、成長したりもするからだ。

 目の前の人に、オープンかつ正直に胸の内を話すことを恐れる人が増えたと聞く。一方で、匿名で書き込みができるSNSにはあらゆる感情が渦巻き、ネットの海で遭難したような気持ちになることがある。しかし、本作に登場する人々は純な思いを行動で示すことに迷いがない。その姿は、大海を滑るように進む小舟のようだ。=朝日新聞2024年12月7日掲載