1. HOME
  2. コラム
  3. 売れてる本
  4. 林木林・作、庄野ナホコ・絵「二番目の悪者」 「大衆の支持」の軽さがリアル

林木林・作、庄野ナホコ・絵「二番目の悪者」 「大衆の支持」の軽さがリアル

 擬人化された動物の姿で描かれた社会の絵本は、最後のページに誰もいない。尊大な者、心優しい者、小心者……誰もいない。そこには荒れた地表があるだけだ。ショッキングな絵。何が起きたのか? どこにでもあることがあっただけだ。優越願望、嫉妬、噓(うそ)、噂(うわさ)。

 金のライオンは王座につきたいがために噓の噂をつくり、それがまことしやかに広まった。今で言うフェイクニュース。人々の中に疑いや不信感が広がり、分断が起こった。噓の噂を広めてライバルを蹴落とし王座についた金のライオンは、独裁者となる。たった一人が、世界を滅ぼすほどの力を持つことは、ある。が、それはたった一人なのではなく、大衆に支持された存在なのだ。独裁者はそうして生まれる。ヒトラーだってそうだった。

 その「大衆の支持」が、本書の中では、とても軽い。この「軽さ」が、おそろしくリアルだ。熱狂的な支持ではなく、なんの気なしに、結果として支持してしまった、というような支持。気になった情報を、軽い気持ちで広めたり、確かめもせず転送してしまったりした、というような支持。消極的な支持。無意識の支持。しかしそれが権力を生むことも暴力を生むこともあり、それですべてが滅ぶことも、ある。「なんの気なし」だからと言って、滅んだものは、取り返しがつかない。

 誰が悪かったのか、自分が悪かったのか、本人にもわからないほどの微細な悪。その悪が取り返しのつかない事態を招くことは、議論を尽くした後の敗北や破局より、ずっといやな気持ちがするものだろう。

 せめて意識的でいること。そのために本書は十年間ロングセラーであり続け、十年という時を見ると、予言のようにも感じられる。

     ◇

 小さい書房・1540円。14年11月刊。14刷7万7千部(大型版含む)。担当者によると「最初は大人の読者が多かったが子どもにも広がった。『自分ごと』として、タイトルにドキッとする人が多い」。=朝日新聞2024年12月21日掲載