「体力をつけて」 育児本に載ってなかった先輩パパの声
――育児経験者として本を読んだのですが、リアリティと納得感があって、ノウハウも充実した内容でした。ヨッピーさんはお子さんが生まれる前から、子育てに関する情報収集や準備をされてきたんですね。
みんな「育児は大変」とか「地獄」って言うからビビりまくっていて。子どもが生まれる前から世にある育児本を読み漁ったんですよ。そしてまわりの先輩パパに「何を準備してたらいいですか?」と聞いたら、みんな口を揃えて「運動して体力をつけて」って。
でも育児の入門書にはそんなこと1行も書いてないんです。経験者はみんな「体力が大事」って言ってるのに。他にもそういうのがたくさんあるんですよ。「乾燥機能付きの洗濯機じゃないと面倒だから買っておいた方が良いよ」とか。書いてないんですよ本当に。「そういうのがなんで書いてないんだろう? 」「じゃあ自分が書くか」みたいな。
育児は体力・時間・お金の3つの要素が大事なので、それを軸に書いています。
――お子さんが生まれる前から、リアルとのギャップを感じていたんですね。実際に子育てを始めてからは、ご自身が変わったなと思うことはありますか?
“丁寧な暮らし”をするようになったことです。生活リズムを整えたり、保険にちゃんと入って資産形成をしたり。家では温度計と二酸化炭素計を置いて、こまめに換気したり。
以前は部屋も散らかってて、お金のことも気にしていなくて、NISAもやっていなかった。夜遅くまでしこたま飲んで二日酔いになっても、その影響って自分だけなのでどうでも良かったんです。
「セルフケア」とか「セルフネグレクト」という言葉がありますけど、「セルフ」の範囲が今までは自分だけだったんですが、子どもができてからは妻や子どもも「セルフ」に含まれるようなイメージに変わりました。二日酔いで寝込んだら妻にも子どもにも迷惑ですからね。
40歳を超えてめちゃくちゃな暮らしを続けていたら、寿命も縮むでしょうし。子育てをきっかけに生活を正せたのは良かったです。
――お子さんが生まれるにあたって不安だったことはありますか?
当然なんですけど、自由が失われることですね。その寂しさみたいなものは実際にあります。朝から友達と麻雀打って、パチンコ行ってみたいなことをしたいけど、頻度は減りました。
でも面白いもので、子どもができると行きたいと思うところが変化しました。パチンコに行きたい気持ちよりも子どもが喜びそうな所に連れて行ってあげたいという気持ちの方が強くなってる。だからそこまで「我慢している」という感覚はないです。
子どもの世話は2人で分担
――働き方も変わりましたか?
かなり変わりました。一番は夜の時間をあてにしなくなったこと。ライターという仕事柄、締め切り日の翌朝までに仕上げればいいと思って徹夜しがちだったんですが、今、仕事は基本夕方5時までですね。子どもが帰ってきたら、子どもが寝るまで仕事はもうできないです。
僕はサウナが好きなので、溜まった仕事をどうしても集中して仕上げたいときは、子どもを保育園に送ったあと朝9時くらいから夜までコワーキングスペースがあるサウナ施設にこもって遅くまで仕事をします。そういう日は妻が夜3時間くらいワンオペになっちゃいますけど協力してくれます。
妻が遊びに行くときは逆に僕がワンオペします。先日も妻が好きなアーティストのライブに申し込んで「チケット2日分当たっちゃった!」って言って2日間出かけていましたね。
――息抜きしながら、夫婦間で育児をうまく分担できているんですね。
本にも書いたんですが、「つらいのは1人でいい」「2人で睡眠不足になるより、1人のほうがまだマシじゃん」というのが根本的な考え方です。2人でずっと子どもの世話をするより1人ずつの方が効率がいいし、大変なことを2人同時にやらなくてもいい。
子どもが生まれたてのときって、お風呂に入れるのも2人がかりでやっちゃうんですよね。 最初はいいんですよ。そういう時間は楽しいので。でも慣れてきたら、わざわざ2人でやる必要は全くない。 2人でわちゃわちゃお風呂場にいるぐらいだったら、その時間に1人はコーヒーを飲みながらゆっくり休んでいる方がいい。
本を読んでくれた友人からは、「そういう考え方を夫婦間で共有するのに役に立った」と言われましたね。そういうマインドを最初に持ってないと、「私だけ大変!」とか「僕だけ大変!」とか思っちゃうんで。大変なことは同時じゃなくて順番にこなしてれば良いんじゃないかなって。
意識してパパがワンオペの時間をつくる
――SNS等では「分担したいけど、夫1人に任せられない」という声をよく見かけます。
お互いが子育ての初期から関わっていないとなかなか難しいと思います。だからこそ「男性は借金してでも育休とってほしい」と本に書きました。
育休も取れない、リモートワークも出来ない、時短勤務も不可、というどうしようもない場合、例えば職人さんなど日給制の現場仕事をやっている人なんかではザラだと思いますし、「仕事を休むと生活が立ち行かない」というケースもあるかと思います。でも、その場合は「借金してでも育休を取ったほうが良い」という事を提唱させていただきます。いやほんとに。1カ月休む事で30万の手取りが減るのであれば、30万借金してでも休んだほうが良いです。それくらい、新生児の育児は大変ですし、なんと言っても貴重な時間でもあります。『パパもママも必読!子育てがラクになるノウハウを集めた育児ハック』(KADOKAWA)
車の運転と同じで、運転していないとペーパードライバーみたいな状態になっちゃうんです。育児も同じで、ふだんあまり育児に関われないパパこそ、意識してワンオペの時間を作った方がいい。
――共働きで家事育児をしていると、どうしても余裕がなく自分の方が負担が大きいと感じてしまって、夫婦間がギスギスすることも。
「自分が損してて当たり前」くらいに思っていた方がいいのかもしれないです。
うちは僕の方が体力があるし、睡眠時間ももともと短い。そういう意味では僕の方がリソースがたくさんあるから、その分僕が大変なことを引き受けるのは当然という考え方でやっています。
一方で妻は子ども服とか見るのがめちゃくちゃ好きだけど、僕はそういうのまったく無頓着なので子どもの服の買い出しはだいたい妻。宅食を注文するのも妻ですね。僕、細かいことは苦手で……。
体力の多い少ないじゃなくて自由時間の多い少ないで考えるパターンもありますし、どちらが稼ぐかで役割分担を考えるパターンもあるので、夫婦それぞれのバランスを探るといいと思います。
――企業に勤める共働き夫婦で、片方がほぼワンオペ状態で疲弊している人の話もよく聞きます。とりわけ、夫の長時間労働の影響で、家事育児の負担が女性に偏っている傾向があります。この問題はどう解決したらいいのでしょう。
難しいんですけど……長時間労働、リモートNG、育休NGのような働きにくい会社は辞めて転職するしかない。
こういう時代で変わっていけない企業は淘汰されていくしかないんじゃないでしょうか。まあまあ人手不足の時代で、どこの企業も人材確保に悩み始めているので、融通の利かない会社からどんどん人が流出していったら、企業側も改めざるを得なくなると思うんです。
会社を辞めるのが現実的じゃなければ、親の近くに引っ越すというのも選択肢になるんだろうなと思います。もちろん、両親が元気で子どもを見てくれる場合に限りますけど。
「サザエさん」の家は子育て、絶対楽ですよね。大人が4人もいるし。義父母や親のいる環境をストレスに感じる人もいると思うんですが、子育てを夫婦2人だけでやっていくのは、かなり無理があると思うんです。
友達を巻き込むのもいいですね。先日、僕がワンオペだった日は、友達に来てもらって僕の子ども2人連れて一緒に回転寿司に行ったんですけど、大人が2人いるとだいぶ楽だなと思いました。
――「子どもにいろんな人を会わせる」と本には書かれていましたね。
僕は子どもが生まれる前からそういう考えだったんです。みんなでどこかに遊びに行くときも、家族持ちの友人には「子ども連れておいでよ」と常に言ってました。独身の頃からそうやって友人の子どもの面倒を見ていたから、自分に子どもができてからも違和感なく連れて行けます。
そういうのはあくまで個人的なことですけど、やっぱり夫婦以外のリソースを社会で補って、 社会全体で子どもを育てるような機運がもっと強くなるといいなと思います。
本では自治体のファミリーサポートなどを紹介していますが、学童が足りていないけど、夏休みどうするの? とか、まだまだ課題が多いと思います。
ネットで「子持ち様」と言われても...
――「社会全体で子どもを育てる」環境になるべきだと思いますが、一方でSNSなどでは子育てについて発信しづらい雰囲気も感じます。
僕も「育児の発信してくれてありがたい」って言ってくれる人の方がもちろん多いんですけど、「イクメン気取りするな」ってすごく言われます。
「ヨッピーは体力があって、自営業という立場を忘れて偉そうなことを言ってる」とか。 「子ども=贅沢品」みたいな言われ方もし始めているので、子どもに関する投稿を自慢みたいに捉える人もいるので気を遣いますね。
――悩みや不安ばかりを書いて育児のネガティブな印象ばかりが広まってしまうのも良くないですし、子育てにポジティブな発信をしたら、それはそれで自慢と捉えられてしまう......。
そもそも育児は悩んでる人が多いジャンルなんですよね。だから能天気に「楽しい」って言われたら、腹立つ気持ちもわかるんです。「お前の子どもは運よく健常者だっただけ」と言われますし……。
うちの子どもも、実はアトピー体質で毎日ケアがちょっと大変だったりするんですが、そういう細かいところまでいちいち発信しないじゃないですか。他人から見えている部分は優雅でも、本人たちは水面下で必死にバタ足していたりする。子育ては楽しそうに見えても、当然それなりに大変なことがいっぱいあります。
ただ、ネットでは「子持ち様」という言葉で叩くのを目にしますけど、いざ子どもを連れて外に出ると、すれ違う知らない人に「かわいいですね」と声をかけてもらったり、道を譲ってもらったりすることも多いので、実際はみんな優しいですよ。
これからの時代を生き抜く「野生味」を
――これからどんな風に子育てしていきたいですか。
自分が40数年生きてきた中で、 周りに幸せそうに思える人たちがたくさんいて、その人たちの共通項ってなんだろうなって思ったら「野生味」のある人なんですよね。
体力があって、何をしていても楽しそうで、どこにでも首を突っ込んでいく。 そういう人は何か困ったことがあっても大丈夫そうなんです。その状況すら楽しんでいるように見える。
そういうマインドを身につけるには、やっぱり基礎的な体力は必要です。あとはいろんな経験をして、道が一本道じゃないこと、レールから外れる生き方もあるということを、子どもに知ってほしいですね。子どもなんて親の思い通りにはならないんですけど、経験がプラスに変えてくれることは絶対あると思ってます。
――「社会的野生味」と書かれていましたね。習い事や受験など、親が先回りして情報収集して、子どもの野生味の可能性を奪うことにならないか悩ましいです。
友達の子どもがいわゆる「お受験塾」に通ったんですけど、「お父様、お母様と呼びましょう」とか「朝食は必ず家族揃って食べたことにしましょう」、「母親は専業主婦じゃないと受からない」と言われるんですって。
そういう教育方針で子育てしていくことが、めっちゃ怖いなと思うんですよね。型にはめようとしているみたいで。友達は結局その価値観に合わなくて、自由な校風の学校に通うために長野に引っ越したみたいですが。僕も、このまま東京で子どもを育てることにちょっと悩んでいるんです。
もしも受験に失敗したとしても死ぬわけじゃないし、不幸になるって確定したわけでもない。大学を出ていなくても、楽しそうに生きている人たちが僕の周りにはたくさんいるし、中卒で上場企業の社長になってる人もいますから。
子どもたちが大人になる頃、日本にはもっといろんな国の人たちがいて、海外で働く日本人も増えていく。多文化共生の時代になったとき、ワクワクできて楽しく生き抜く。そんな力をつけさせてあげたいなと思います。