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映画「雪の花 ―ともに在りて―」主演・松坂桃李さんインタビュー 未知の病に立ち向かう町医者「志を尊敬」

松坂桃李さん=有村蓮撮影

(C)2025映画「雪の花」製作委員会

資料から感じた医者としての志

――今回は、原作と脚本以外にも、演じる笠原良策に関する資料を読み込んでから撮影に臨まれたとうかがいました。

 事前にスタッフさんが資料をたくさん用意してくださったので、良策の生い立ちやどんなことをしてきたのかという部分はそれを頼りにしていました。資料を読んでいくほど、良策の医者としての志の高さを感じましたね。

 未曾有の疫病から多くの人を救うために、無名だった町医者が「蘭方医学」という新しい医学を取り入れ、それを広めるということは相当大変だと思うんです。良策は今までの医学では太刀打ちできないということを一度自分の中に落とし込んでから、また一から治療法を見つけ出すことをした人。その医者としての信念や思いを大事にしたいなと思っていました。

――以前、主演した時代劇「居眠り磐音」では、浪人として暮らしながらも剣の腕がたつ役どころでしたが、今回は町医者。役作りで意識したところは?

 今回は武士ではないので、強さを全面的に出すというよりは、人々の声を受け止め、現状をよく見てそれを受け止めるという人物に方向転換していった感じです。あとは当時の所作を取り入れながら、町医者としての立ち振る舞いを少し意識したところはありました。

――黒澤明さんの助監督を務めたこともある小泉(堯史)監督とは今作が初タッグでしたね。

 小泉さんからお声がかかるなんて、一生に一度あるかないかのことだと思ったので、この機は逃したくないと思い「ぜひ!」と即答しました。小泉さんをはじめ、組スタッフさんが黒澤組を経験した方が多くいらっしゃったので、今まで僕が参加させてもらった現場とはまた違った空気感がありました。あとは、今回は全編フィルムなので撮り直しが効かないという緊張感もありました。と同時に、この小泉組の中で先輩方もやっていたのかなと思うと高揚感や興奮も感じました。

――蘭方医学の教えを乞うため、役所広司さん演じる京都の蘭方医・日野鼎哉(ひの・ていさい)の元へ行き、天然痘の治療のために奮闘する二人は徐々に師弟関係のようになっていきます。

 役所さんとは今作が5回目の共演になるのですが、作中で鼎哉先生から「名を求めず、利を求めず」というありがたい言葉をかけてくださった時、僕自身に役所さんからかけてもらった言葉のようにも感じました。今回改めて思ったのは、役所さんはどんな役でもすんなりと自然に入ってこられるので、違和感が全くないんです。なので、僕も素直に鼎哉先生の言葉を聞くことができました。

――鼎哉先生からの教えや言葉のひとつひとつが、役を通り越して松坂さんへの言葉のようにも感じました。

 僕は役所さんがあの衣装と風貌で現場に入ってこられた瞬間「映画『赤ひげ』(黒澤明監督作で江戸時代の小石川養生所を舞台に、赤ひげと呼ばれる所長を三船敏郎が演じた) だ!」と思いました(笑)。その時点で「この人から学ぶべきものは本当にたくさんある」ということを瞬時に分からせてくれたので、改めてすごい方だなと感じました。

「雪山越え」に感じた責任の重さ

――種痘の苗を福井に持ち帰るため、風吹の山を越えるシーンは思わず手を握りしめていました。あのシーンではどんな思いで演じましたか。

 福井県でロケをしたのですが、四季の情景が本当に美しかったですね。ただ、時に自然の厳しさも感じて、特に雪山のシーンを撮影した時は猛吹雪だったんです。当時の人たちはこれを経験してきたのかと思うと、本当に命がけだったのだなと改めて感じました。当時は交通手段が少ない中で、冬に雪山を越えるというのは考えられないことですが、それだけのことをしなければ多くの人たちを救えないという責任や事の重大さをより一層肌身で感じ取ることができたので、自然の力はこの作品に大きく作用したと思います。

 あとは幼い子どもたちの命を預かっている身として、何とか無事に峠を越えること、そして「とにかく種痘を福井に運ぶんだ」という一心でした。

――例え種痘を無事持って帰ることができたとしても、それが成功するかもわからない中、良策の「絶対に諦めない強さ」はどんなものからうまれたと思いますか?

 多くの人たちの命を預かっているからこそ、種痘を持ち帰えらなければならない。例え猛吹雪でも、今この山を越える必要があるんだという良策の強い意志や、医者としての向き合い方は尊敬に値すると思っていますし、それだけ身を粉にしてできる精神力は他の人にはないものだったのかなと思います。

 どの時代もそうですが、未知のものに立ち向かうことはなかなかできることではありませんよね。でも歴史を振り返ってみれば、そういう困難に立ち向かった人たちがいたからこそ多くの命を救うことができたし、未来に活用することができた。その精神性は見習うべきものだと思います。

――映画には「ともに在りて」という副題がついています。妻の千穂や鼎哉先生をはじめ、さまざまな人の助けや支え合いがあったからこそ、良策は大義を成すことができたのだと思いました。

 本作の副題に「ともに在りて」がついた意味は、まさに今おっしゃっていただいたことだと思います。どの事柄においてもそうだと思うのですが、多くの人たちの力を借りて、支えがあったからこそたどり着けること、一人では絶対に成し得ないことってありますよね。協力してもらった者として、それを真摯に受け止めてお返しする必要があるので「ともに在りて」という言葉は、そういったことを総称しているのだろうなと思います。

――松坂さんはこの作品を映画化する意義をどうお考えですか?

 いつの時代も、未知なものに対して人は同じような恐怖感を感じることは今も昔も変わらないなと思いました。それはコロナを経験した今だからこそ、より強く感じることができたし、だからこそこの「雪の花」という作品をやる意義を感じています。

 カテゴリーとしては時代劇なのですが、僕は「時代劇だからこういう演じ方をしよう」とは思っていませんでした。蘭方という新しい医療を取り入れたことによって、多くの命が救われて今がある。その歴史と原点をちゃんと紐付けて演じることが大切だったので、現代で起こっていることと同じような感覚でこの作品も見てほしいなと強く感じました。

樹木希林さんからもらった言葉

――「命をつないでいる」という良策のセリフがありましたが、ご自身がこれから受け継いでいきたいことを教えてください。

 以前、(樹木)希林さんから「謙虚に人の世話になりなさい」という言葉をいただいたのですが、いつか自分がそれを誰かに言えるようになりたいと思います。今の僕ではその言葉を言っても何の説得力もないので、いつかしっかりとした厚みのある役者になって、後輩にその言葉をつないでいけるような仕事をしていきたいです。

――今年でデビュー15周年。ここまで続けてこられたことをご自身ではどう思いますか。

 僕も良策さんのように、マネージャーさんをはじめとする事務所のスタッフさん、監督や共演者の方、出演した作品を見終わった後のお客さんの表情も含めて、自分に送られる言葉や情景みたいなものが「また一歩進んでいこう」と思える気持ちにつながっているのかなと思います。

 例えば、3段飛ばしでビューンと進んでいたらまた違っていただろうし、下手すれば5年持ったかどうかも分からなかった。でも、急がず焦らず、一歩ずつ着実に踏みしめてきたからこそ、ここまで来られたのかなと思います。こうして「作品」という大きな壁をひとつ越えていくこと、またその過程の中でたくさんの人の支えがあったから、15年続けてこられたと思っています。

「今」を見る感覚が行き渡れば

――「時代劇」というジャンルを次世代に継承していくことために、ご自分の役割として考えたことはありますか。

 先日、真田広之さんが主演・プロデューサーを務めた「SHOGUN 将軍」がエミー賞史上最多の18部門を受賞して、日本の時代劇というものが世界からも注目を浴びましたが、これを機に日本でもまた時代劇がたくさん作られていくと思います。なので、時代劇と現代に生きる人たちとの距離感がもっと縮まってほしいなと思いますね。

 「時代劇」と聞くと、若い世代の方たちには少し距離ができてしまう感じがあるのですが、別次元の話というよりは今作のように現代に通ずるものがきっとあるので、歴史の教科書を読む感覚ではなく「今」を見るような感覚が皆さんにも行き渡ればいいなと思います。

――映画「あの頃。」のインタビューでは『HUNTER×HUNTER』をアツくおすすめいただきましたが、今作を機に、歴史本にも少し興味を持ったのでは?

 そうですね。次に歴史上の人物を演じることがあったら、その人のことを徹底的に本や資料から読み解いていきたいなという思いは芽生えました。その人と関わった人々の生き様みたいなものも知りたいし、その時代にどんなことが実際に起こったのかを自分でちゃんと学んでいきたいなと思います。これだけ日本の歴史が実写化されていく中で、まだまだ紐解かれていないことも、きっとたくさんあると思います。