気象庁の主任研究官で、雲の科学を専門とする著者は、SNSフォロワー40万人を誇る「インフルエンサー」でもある。空や雲を愛(め)でて親しむことと防災リテラシーの向上を、表裏一体と捉え、一般の関心を搔(か)き立てる活動を展開してきた。本書は、著者のこれまでの経験、伝え方の工夫などが凝縮された決定版として、読者に受け入れられているようだ。
本書では二つの魅力的な要素が、絡まり合って提示されている。一つは、とても身近なのに不思議な気象現象の「仕組み」を知る喜び。最新科学でも解き明かされていない謎も含めて知的好奇心が満たされる。そして、もう一つは、単純に「美しい」ことだ。様々な形の雲、虹などの大気光学現象、そして雪の結晶! すべてカラーで挿入される写真には息を呑(の)む。
全項目が練りに練られており、著者が満を持して問うたことがひしひしと伝わってくる。例えば、導入部では、味噌(みそ)汁、コーヒー、アイスキャンディーを使った観察や、浴室での実験などを紹介するが、これらは著者の実践からのよりすぐりだ。分かりやすいイラストも、既存の著作を経て洗練され、さらに分かりやすくなっている。虹だけではなく、彩雲、ハロ、環天頂アークといった様々な大気光学現象との出会い方をまとめたページは素晴らしく整理されており、コピーして机の脇に貼っておけば大いに役立つ……等々。
むろん気象現象は、楽しいだけではない。しかし本書を通じて空に親しむ読者は、自ら空を見上げながら、気象情報に接する頻度も増す。気象庁サイトの「雨雲の動き」などを使い倒し、見極める力も鍛えられるだろう。空を見上げる喜びが、日々の生活を豊かにするだけでなく、減災に通じるという著者の考えには、大いに説得力を感じる。
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ダイヤモンド社・1980円。23年9月刊。3刷2万3千部。「読者は男性より女性が多い。空を見上げるのが楽しくなったという感想が多数届いている」と担当編集者。著者は映画「天気の子」の気象監修も担当した。=朝日新聞2025年1月18日掲載