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切手に迎合する 津村記久子

 ハガキも封書もめったに書かないし、まとまった数の年賀状を作る習慣がなくなって久しいのだけれども、数人の方には年末年始にあいさつ用のポストカードを書いている。なので一年の間でいくばくかの切手は確実に使うし、やはりいくばくか常備している。困っているのは、この十年ぐらいの間、ときどき郵便料金値上げがあって、手持ちの切手の料金が足りているのかそうでないのかわからなくなることが頻繁にある上に、郵便料金自体も常に把握できていないことだ。今現在もあやしい。あれー封書は九十円ぐらいだっけな、ハガキは六十三円ぐらいだろう。違う。定形郵便は一一〇円、ハガキは八十五円だ。

 ハガキや封書はほとんど利用しなくなったけれども、青いレターパックライトはけっこう使う。小包にするには大仰だと思える本や小物の発送に便利だからだ。重さは一律4キロまでで、定形外郵便みたいに細かい重量を気にせずにすむ上に、対面を要求しないので好きだ。そのレターパックライトも三七〇円から四三〇円に値上がりした。対面で届ける赤いレターパックプラスは五二〇円から六〇〇円への値上げだ。

 年始に赤いレターパックを使うことがあったのだが、自宅にあった数年前のものを使ったので、手持ちの最後の一枚の八十四円切手を貼り足して投函(とうかん)した。四円超過だ。貼れそうな切手を漁(あさ)るうちに、二十六円切手を数枚見つけて、何に使うのか考え込んだ。正解は、八十四円切手に足して一一〇円にして封書を出すのだが、ぱっと見ではわからない。で、八十四円切手はレターパックの追加に使ってもうない。二十六円切手は宙に浮いている。八十四円切手をまた買い足して使うのか。

 数枚あった二十六円切手は、同じく数枚あった六十三円切手に貼り足してハガキに使うことにしたのだが、やはり四円超過がどうも気持ち悪い。手元の切手がゼロになる日は来るのだろうか。地味に悩むこの切手算から解放されたい。=朝日新聞2025年01月22日掲載