
ISBN: 9784093867412
発売⽇: 2024/12/18
サイズ: 13×17.5cm/288p
「ピクニック部」 [著]嶽本野ばら
あぁ、もう、もう! この判型、この装丁。可愛いオブ可愛いじゃないですか? でも、中身はもっと可愛いんですよ。
表題作(これだけで一冊にしても良いくらいのボリュウム)と2編の短編「ブサとジェジェ」「こんにちはアルルカン」からなる本書は、どの物語にも「可愛いという哲学」が心棒となっている。どの1編も良すぎるのだけど、名目上の定年退職を迎えた60歳のミカヅキが、ロリータファッションに目覚めるその瞬間を描き出した「こんにちはアルルカン」が個人的なベスト。
「お婆(ばあ)さんになるのも悪くはない」で始まり「還暦を過ぎてロリータになったババァの恨みは恐(こわ)いのよ」で終わるこの1編は、アラカン女性はもちろん、全ての年代の女子のバイブルになるはず。だってね、ミカヅキ、最高なんだもの。
永遠の文学少女であり、SNSでは年齢を伏せ、「乙女の近代文学愛好協會(きょうかい)」というサークルに所属しているミカヅキ。三つ編みをしているため、ミツアミさん、と会社で呼ばれているミカヅキ(多少、馬鹿にされているのかも、と知りつつも、親しみを込めた渾名(あだな)だとミカヅキは理解している)。
可愛いものは好きだから、大人になってもロリータのお洋服のチェックをしていたが、自分には無理、と思っていたミカヅキが、ゴシックロリータのお洋服を試着してみる場面の、なんと愛(いと)おしいことか。
「カヲル、可愛いって涙が出るものだったんだね」。このミカヅキの言葉のなんと素敵なことか。
試着したお洋服をそのまま身につけ、30年以上、大切に大切に手入れをして履き続けている靴(蒼〈あお〉いサテンのリボンがシューレースとして用いられている、ロリータ界では伝説の靴)を履いて町に出るミカヅキ。その姿を思い浮かべると、胸がほかほかする。
傑作『下妻物語』から20年。野ばらちゃん第二章始動の一冊である。
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たけもと・のばら 『エミリー』『ロリヰタ。』で三島由紀夫賞候補。他に『下妻物語』『ハピネス』など。