山田祐樹さん「変な心理学 バズっているアレの正体」インタビュー 「いけねえ癖」に駆られて
パソコンでの心理実験と日々格闘する著者は「いけねえ癖」を持っていると書く。
心理学と名がついていれば、論文だろうが自己啓発本だろうがドラマだろうがあらゆるものが気になってしまい、片っ端から目を通すのだ。すべてはこの学問への愛ゆえなのだが、情報を吸収するなかで気付いた。
大衆の間で話題になっている「心理学」って、学術的な心理学とずれてやしないか?
例えば、しぐさや言動から心を読み取ろうとする「行動心理学」、一つのことを気に留めているとそれに関する情報を自動的にキャッチしやすくなる「カラーバス効果」。これらの言葉は一般書で心理学と紹介されることが多いが、実は学術の現場では使われていない。大好きな人が振り向いてくれた途端に冷めてしまう「蛙化(かえるか)現象」は、流行語にもなったのにほとんど研究されていない……。
「誰しもが心の動きを言語化したい。もっともらしい説明とキャッチーな名前がついて、しかも心理学だと言われたら飛びつく気持ちは分かります」
かくして、これらの用語がなぜ大衆の間で心理学と呼ばれるようになったのか、著者は執拗(しつよう)な追跡を始める。インターネットの過去の記録や書籍をさかのぼり、言葉の初出や心理学と言われ始めた転機の記述を続々と見つけ出す。ただし“犯人”を断罪はせず、皮肉とユーモアでちくりと一刺しするだけだ。
その読み心地はミステリーのよう。著者がかつて心理学者を主人公にした推理小説を趣味で書いていた経験や、犯罪者心理を分析するプロファイラーに憧れていた過去と無縁ではないだろう。本書を通じて「『それって本当に心理学?』と疑うマインドを持つきっかけになれば、書いたかいがあった」と言う。
そんな卓越したリサーチ力を持つ著者だが、一つだけもどかしい思いを抱える。
「『いけねえ癖』は高校生の頃に見た記憶があるドラマで、主人公のカウンセラーが口にしていたセリフ。それが何の作品かはついに突き止められませんでした」(文・写真 木村尚貴)=朝日新聞2026年3月21日掲載