本書はむろん、数字でのごまかしを推奨する本ではない。その手口を認識させ、みんながダマされないようにする本だ。
その後類書もいろいろ出ているが、本書は半世紀たっても見劣りしない。重要なポイントはすでに完全に網羅されている。むしろ古い分、書き方がまんべんなく素直な面すらあり、それも売れ続けている一因かもしれない。だます手口は半世紀前(いやそれ以前)からほぼ変わっていない。標本選びの偏り、平均値を使ったごまかし、グラフのインチキ、相関と因果関係の混同等々。本書で書かれた手口は、未(いま)だに後を絶たない。本書の有用性はまったく衰えていないのだ。
それはだまされる側にも進歩がないせいでもある。が、必ずしもみんながトロいから(だけ)ではない。新しい無垢(むく)な(ダマされやすい)世代が次々に生まれるし、またすでに知っているはずの人々も絶えず復習が必要なのだ。
一部では、皮相的な理解が増えてありがた迷惑な面もある。グラフ縦軸の原点をゼロ以外にしただけで、「インチキだ!」とネットで騒ぐ人が多いのも一例だ。確かにウソ「にも」使える手法だが、目的次第ではまったく問題ではないのだ。が、形式的にせよ統計詐欺について警戒心が高まっているのは歓迎だ。みなさんも本書などで、情報の賢い受信者になろう!
あともう一つ。初版刊行時とはちがい、いまや表計算ソフトで誰もが数字をいじりグラフを作る機会が激増している。自分の部署の業績をよく見せようと、本書の手口をつい使いたくなることも多いはず。賢い受け手となるだけでなく、そういう悪魔のささやきを退け、情報の正しい発信者となるためにも、改めて本書などをお読みあれ。それが情報リテラシーなるものの基本なのだから。
◇
高木秀玄訳。講談社ブルーバックス・1012円。1968年刊。106刷34万5千部。著者(1913~2001)は米国生まれ。社会心理学や統計学を研究。「書名は逆張りだが内容はベーシック。古典として読まれている」と担当者。=朝日新聞2025年2月8日掲載
