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山田裕樹さん「文芸編集者、作家と闘う」インタビュー 名だたる書き手との40年

山田裕樹さん

 40年以上、集英社で文芸編集者として過ごした。北方謙三さんの単行本デビュー作をはじめ、手がけた本は350冊を超える。引退を機に、一つの小説が世に出るまでの作家との濃密なやりとりを、ユーモア交じりにつづった。

 著名な作家が次々と登場する。駆け出し時代、編集者としての道標を示してくれた筒井康隆さんの「預言」、小林信彦さんの本を作りながら学んだ書籍編集の「心得」。興味深い挿話ばかりだが、ハイライトは「冒険小説という迷宮」と題された第2章だ。

 1980年代初め、北方さんを流行作家に押し上げたものの、社内では「ツキに恵まれた一発屋」と思われていた。ツキを手放すまいと、多くの作家に声をかけるうち、逢坂剛さんから650枚ほどの原稿を預かる。「時間と視点」の観点から細部まで読み込み、改善点を指摘し、本に。後の人気シリーズ第1作『百舌(もず)の叫ぶ夜』となる原稿のやりとりは、そのまま小説論になっている。

 北方、逢坂、故・船戸与一ら、担当した作家が群れをなしてブレークした80年代は「冒険小説の時代」と呼ばれた。ただ、この分類がよくわからない。ブームの伴走者いわく、ミステリーの一分野だったハードボイルドを、書評家らが枠にはめようとしたのが混乱の元だったそう。「そもそもジャンルなんて読み終わってから決めればいい。まずは面白いかどうかです」

 面白さとは?

 「最初はプロットでしたが、次第に登場人物のうちの一番気になる人間が、どうしゃべり、どう行動するかを見ながら、読み進めるようになった。ただ物語にはテーマがあり、プロットがあり、人間がいて、文章がある。どれが大切なのかは作品次第です」

 本作は及び腰で作家のもとを訪れていた青年が、一騎当千の編集者となる成長物語でもある。出版状況が激変するなか、編集者が変えてはならないものは何だろう。

 「丁寧に物語と向きあい、確固とした意見を持ち、他人を説得することでしょうか。書名に〈作家と闘う〉なんて書いてるけど、僕が闘ったのは作家じゃなくて原稿です」(文・野波健祐 写真・慎芝賢)=朝日新聞2025年2月8日掲載