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雑誌「母の友」創刊72年で休刊 イベント参加者「母校が廃校になるような寂しさ」

 「母の友」は、児童書を出版する福音館書店が1953年に創刊した。「幼い子と共に生きる人への生活文化雑誌」と位置づけ、作家や画家の書き下ろしの童話やエッセー、読者の投稿などを通して、「言葉」に光を当ててきた。

「母の友」編集長の伊藤康さん

 最終号のテーマは「『生きる』を探しに」。伊藤さんは、2022年に亡くなった松居直(ただし)さんが編集長として立ち上げたことを紹介した。松居さんは、3人の兄を戦中戦後に戦場や病気で亡くした経験から「生きるということを皆さんと考えたいと思って、この雑誌を作った」と生前に繰り返していたという。「だから休刊が決まって間もなく、最終号のテーマも固まりました」

 ここから数多くの名作が生まれた。

 昨年10月に89歳で亡くなった中川李枝子さんの「ぐりとぐら」の元になった童話「たまご」は、最初に「母の友」に掲載された。角野栄子さんの「魔女の宅急便」も80年代に「母の友」で連載されたのが初出だった。

 最終号では、中川さんが過去の取材や対談で語った言葉を抜粋して再掲した。

 「我が子を、ふつうに元気に育てたい、と思ったら、『よい子』にしようなんて思わないでね。(中略)実際、子どもは、本当に、みんな問題児なの(笑)。それぞれになにかしら困ったところがあるのよ。そして、その困ったところこそが、その子の大事な個性なの」

 この一節を朗読した伊藤さんは「言葉に負けちゃう。中川さんの言葉に……」と声を詰まらせた。そのうえで「中川さんはいつも『子どもが幸せでいるために、大人が幸せでないとね』ともおっしゃっていた。それが『母の友』の骨身の部分にもあったんじゃないか」と振り返った。

「こどものひろば」の選者を務めた歌人の東直子さん

 イベントには、子どもが発した何げない一言を集めた投稿欄「こどものひろば」で2年間選者を務めた歌人の東直子さんも参加した。

 東さんは、風で舞いあがる花びらを「お花が走ってるよ」、飛行機で気圧の変化を体験し「僕の耳、行き止まりになったよ」といった子どもの言葉を紹介。「現実と非現実が地続きで、いろんな物が生き生きと見えるんだということを、彼らがこぼした言葉から気づかされる」

 会場の読者からは「母校が廃校になるような寂しさを感じる」と惜しむ声も。伊藤さんは「子どもと大人が対等な関係で集える場所というのが面白さだと考えてきたが、守りきれなくてごめんなさい、という気持ち。松居さんをはじめ、先輩たちにも感謝の思いでいっぱい」と話した。

 伊藤さん以下5人の編集部は今月末で解散する。最終号を送り出したいまも、読者から感想や投稿のはがきが届いているという。(伊藤宏樹)=朝日新聞2025年02月19日掲載