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論争的な概念、社会変化の中で更新「貧困とは何か」 杉田俊介の新書速報

  1. 『貧困とは何か 「健康で文化的な最低限度の生活」という難問』 志賀信夫著 ちくま新書 968円
  2. 『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』 工藤律子著 集英社新書 1100円

 貧困はそれ自体が論争的な概念であり、社会の変化の中で更新されてきた。(1)の整理によれば、一九世紀末~二〇世紀初頭にイギリスを中心に議論された「絶対的貧困」は肉体的生存が維持しえないほどの所得の欠如を、二〇世紀半ばの「相対的貧困」は通常の社会的生活を維持できないほどの所得の欠如を、一九八〇年代以降の「社会的排除」(主にフランスで生まれEUで育った概念)は全ての市民の幸福追求を阻害するような(所得のみならず)自由の欠如を、それぞれ意味した。近年の生活保護バッシングでは、社会的・文化的な生存は贅沢(ぜいたく)であり、動物的な生存維持だけを「最低限度」保障すればよい、という圧力が強まっている。だがそれは貧困概念の歴史的展開を無視している。

 私たちの多くは「働く」=「就活を通して会社に入る」という等式を自明視している。しかし(2)によれば近年、ラテン系の諸国を中心に、社会的連帯経済という働き方が拡(ひろ)がってきた。利益競争と経済成長を最優先するのではなく、人々の協同と連帯を通して社会的貢献を目指す働き方であり、既存の資本主義とは異なる経済を作り出す試行錯誤である。日本にも農協や生協、労協などの歴史があるが、たとえばSDGsの拡がりに比べても労働と連帯への注目は十分ではない。それだけ、日本では「働く」ことに新しい可能性を想像しにくいのだろう。次世代の労働はどうあるべきか。あるべきではない貧困とは。問い直しの時期のようだ。=朝日新聞2025年3月1日掲載