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野咲ソウ「ユニ様の舟」 瑞々しく不穏、恋と宗教の物語

『ユニ様の舟』(1) 野咲ソウ〈著〉 小学館 770円

 きっかけは、地味なメガネ男子がクラスの人気者女子のテスト用紙を拾ったことだった。彼にとって彼女は声もかけられない別世界の住人。が、裏に書かれた「かなり嫌な熊手」という謎の言葉が気になって仕方ない。しかも壁を隔てて壊れたマイクを通した彼の声を、なぜか彼女が神の声と思い込み……という導入でツカミはOK。

 神としてなら彼女と話せる、そのためには彼女のことを知らなければ、と奮闘するも空回りの彼の姿には苦笑を禁じ得ない。女子は女子で「ユニ様」と呼ばれる神を信仰しているらしい。だからこそ彼の声を神と信じてしまったのだが、神に祈る彼女は普段の明朗さと裏腹に自信なさげで弱々しい。

 彼女を観察し、話ができればうれしく、うまく話せずに落ち込む。本人に自覚はないが、人はそれを恋と呼ぶ。しかし、彼女のほうはいわゆる宗教2世で家族に問題を抱えていそう。謎の言葉は衝撃の種明かしがあるが、ユニ様の正体は現時点では不詳である。

 現役大学生の作者が描く恋と宗教の物語は瑞々(みずみず)しく不穏。力弱い描線は主人公たちの不安定な心象に調和する。「何かを信じればいつか、必ずバカを見る」と信じる男子は、彼女を救う本当の“神”になれるだろうか。=朝日新聞2025年3月1日掲載