「日本の反戦非戦の系譜」書評 思想は存在したが潮流に至らず

ISBN: 9784560091425
発売⽇: 2024/10/27
サイズ: 18.8×2cm/250p
「日本の反戦非戦の系譜」 [著]石原享一
本書のテーマは、「日本の近現代史に反戦非戦の潮流はあるか」ということになるのだが、読み終わったあとの実感は複雑である。一言でいうならその訴えを歴史に刻んだ人は確かに存在する。しかし潮流を作るまでには至っていない、というのが結論なのである。
戦争によっては何も解決しないことを「歴史の現実」と見て、軍事に軍事以外で対抗した例を挙げる。ソ連の侵略に抗した「プラハの春」から「ビロード革命」への流れである。そして記述を進める。
日本の近現代史では勝海舟、田中正造、幸徳秋水、内村鑑三、そして石橋湛山や斎藤隆夫などの名が挙がり、スケッチが試みられる。いずれにしても、それが潮流にならないところに日本社会の特質があるのだろう。戦後の80年では安倍能成(よししげ)、末川博やベ平連の面々、中村哲などである。
なぜ潮流ができないのだろうか。本書はその点の分析はない。ただし、今後の問題として、台湾海峡、香港の民主化運動、そして中国といかに向き合い、これからアジア・ビジョンをどう描くかに焦点を絞り、反戦の側から向き合う姿を提示する。この著者の論点は意外性を持つ。次のような表現に出会うのだ。
「戦前と戦後の反戦非戦の系譜をつらぬくものは、弱きを助け、強きに抗する『義俠(ぎきょう)心』、あるいは権力や富に媚(こ)びない『反骨精神』に収斂(しゅうれん)するのではないか」
この視点で2・26事件の西田税(みつぎ)などを論じるのが、本書の独自性であろう。北一輝の誤謬(ごびゅう)を指摘しつつ論じてもいる。大川周明などにも筆は及び、宮崎滔天(とうてん)の革命ロマンにも触れる。従来の見方から離れての論述は、逆にいうと日本社会はとうとう反戦非戦の思想も持てず、それに基づく行動原理も持てなかったことの証明になるということか。
本書は読む側に重い問いかけを発している。最終頁(ページ)を閉じると答えを呟(つぶや)きたくなる書である。
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いしはら・きょういち 1949年生まれ。神戸大名誉教授。アジア経済研究所名誉研究員。著書に『知と実践の平和論』など。