藤木聡さん「火打石と火打金の文化史」インタビュー 発火具の変遷の謎に挑む
火花を散らすことで清めや厄除（やくよ）けを行う「切り火」の習慣。時代劇などでしかほとんど見かける機会のなくなった、そんな切り火などに使われる発火具の起源と変遷を追った研究書『火打石と火打金の文化史』をまとめた。
３センチ弱と分厚い本だが、総じて読みやすい。考古資料、民俗資料、絵画資料などを駆使して発火具の広がりを追いかけ、ルーツへとさかのぼるプロセスは、まるで推理小説の謎解きのようだった。
福岡県生まれ。高校生の頃から近くの畑を歩き、石器などを拾って回る考古学好きの青年だった。
進学した熊本大学と大学院では旧石器を研究。しかし２０００年ごろ、就職先の宮崎県埋蔵文化財センターで、遺物の整理作業中に、旧石器時代や縄文時代のものとは考えにくい石器を見つける。「石器に使うための剝片（はくへん）を採取した後の核のように見えるが、その後も繰り返したたいた痕跡がある。これは火打石じゃないかと直感的に思いました」
火打石は広い視点では石器の一種だが、石器が主に使われた旧石器～縄文時代よりもずっと時代が下る、古代～近代にかけての所産。このため、石器研究者にとっては長い間、興味の対象外だった。
藤木さんはそこへ石材、製作技法、使用痕などを詳細に調べるオーソドックスな石器研究法を導入。九州地方を中心とした８～１９世紀の火打石の変遷を明らかにした。
藤木さんによると、鋭い切れ味が特徴で縄文人がよく石器に使った黒曜石は、火打石には適しておらず、出土するのはわずか。対して、比較的粘りのあるチャート、メノウなどはよく使われた。
火きり臼などを用いた火起こし自体は先史時代から行われてきた。しかし、朝鮮半島や九州での出土例からみると、日本列島で火打石と火打金が使われ始めるのは、律令体制が整う８世紀以降である可能性が高いという。
「でも、長野県などでは古墳時代のものとされる火打金状の金属製品が見つかっている。九州を介さない伝播（でんぱ）ルートがあったのか。今後はそれを明らかにしていきたい」（文・写真 宮代栄一）＝朝日新聞2025年3月15日掲載
