
ISBN: 9784622097679
発売⽇: 2025/02/19
サイズ: 19.4×2.3cm/352p
「ハチは心をもっている」 [著]ラース・チットカ
知らない相手をつい、根拠もなく見下してしまう。小さな節足動物たちを「虫けら」と軽んじるのもその一つ。でも彼ら彼女ら――具体的にはハチの仲間たち――は実のところ、大変賢くて侮れないという。それを徹底解説したのが本書だ。
たとえば蜜集め。花のかたちは種類ごとに違うので、一筋縄ではいかない。経験豊富なハチは初心者よりもずっと早く、蜜のありかにたどり着ける。何十回と数をこなすうちに上達するという。
つまりハチたちは「学習」ができる。生まれつきの「本能」だと片付けたくなるけれど、それだけではないのだ。若造はベテランをじっと観察して学ぶ、なんてことまでしているのだそうな。
ハチ1匹ごとに個性もあるし、集団ごとの「文化」まであるらしい。ひもを引っ張ると蜜にありつける仕掛けに挑戦させると、やり方を見つけられたのはごく一部の天才バチだった。でも、まわりの凡バチたちはそれを次々にまねして、技術が一気に広がったという。人間の社会で起きるイノベーションそっくりだ。
では、ハチに「心」はあるのか。著者は「イヌやネコにも劣らぬ確かさで」意識があるとみる。蜜集めのときに天敵に食べられそうになったハチはその後、すぐには花に飛びつかなくなったし、逆に思いがけず蜜にありつけた後だと、大胆に振るまうようになった。怖い思いをすると心配性になり、いいことがあると調子にのる、らしい。
「へー」という驚き満載。でも、だからどうした? 著者は本書の最後で、大胆な提案をする。
彼の考えでは、心を持つ無脊椎(せきつい)動物はハチ以外にもいるはずだという。彼らを虫けら扱いして、いじめてもいいの? 犬猫と同様の「動物福祉」を考えてやるべきなのでは? たとえばロブスターを生きたままゆでるなんて、許されない!
本書を読む前なら一笑に付していたかもしれない。でも、うーん。理屈の上ではたしかに……。
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Lars Chittka 英ロンドン大クイーン・メアリー校教授(感覚・行動生態学)。ハナバチの知性の研究で知られる。