
ISBN: 9784336076762
発売⽇: 2024/12/25
サイズ: 3.4×18.8cm/552p
「ゲットーの娘たち」 [著]ジュディ・バタリオン
十年以上の歳月をかけて書かれた分厚いノンフィクションだ。すべてのきっかけになったのが、著者が大英図書館で発見した一冊のアンソロジー。レニャというポーランド系ユダヤ人女性もそこに実体験を記し、第二次世界大戦が終わった翌年に出版されたが、長く忘れられていた。
著者はまさにレニャのような「強いユダヤ人女性たち」を探し求めていた。男性ではなく、自分と同じ、女性のロールモデルを。華々しく顕彰され銅像が建てられる男性と違って、女性が偉人に認定されることは極めて少ない。この根深いジェンダーバイアスのせいで、ナチスを相手とするレジスタンス運動に加わった女性たちの存在は、歴史から消されてしまっていた。
レニャの回想録を起点に調べだすと、女性闘士たちの話は次々に見つかったという。ポーランドのゲットー(ユダヤ人が強制的に居住させられた隔離地区)、過密状態の不衛生な家で耐え難い暮らしを送りながら、「運び屋」として危険な任務をこなしていたタフな女性たち。彼女たちはアーリア人に見える外見と訛(なま)りのないポーランド語を武器に、地下組織のビラや拳銃を隠し持って戦下の街を駆け抜けた。殺戮(さつりく)される同胞たちの力になるために。
歴史に残るワルシャワ・ゲットー蜂起やパルチザン部隊にも女性たちの姿はあった。映画などに描かれてきた泣き喚(わめ)くモブ(その他大勢)ではなく、難しい任務に当たる重要人物として。若い女性たちの命懸けの行動は、およそ人間とは思えない残虐なナチスとの対比により、一筋の光のように暗黒の時代を照らす。
しかし。「シオニズム」という言葉が出てくるたび、私の心臓はぎゅっとなる。すでにパレスチナへの〝移住〟は始まっている。ヨーロッパ全体から公然と迫害されゲットーに押し込まれていた当時のユダヤ人にとって、パレスチナに住むことは唯一の救いだった。レニャを含む登場人物のほとんどが、シオニストの青年組織に所属している。
二〇二三年から続くイスラエルによるガザへの攻撃の前に読んでいたら、違う感想を抱いただろう。ところが今や世界の見え方はがらりと変わった。ユダヤ人にとっての移住はパレスチナ人にとっての入植であり、ゲットーと分離壁に囲まれたパレスチナ自治区の様子があまりにも重なる。何十年の時を経て、被害と加害が螺旋(らせん)を描く。
かくして、非常に複雑な読書体験となった。けれどその複雑さや矛盾から逃げず、「わたしたち全員が過去に正直に向き合わねばならない」。これに尽きると思う。
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Judy Batalion カナダ出身。英語、仏語、イディッシュ語、ヘブライ語を話す環境で育つ。著書に、ホロコーストを逃れたユダヤ系ポーランド人移民である自身の家族を描いた回想録『White Walls』(未邦訳)。