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高野紀子さんの「テーブルマナーの絵本」 マナーの背景にある「文化」を大切に 

『テーブルマナーの絵本』(あすなろ書房)より

「いただきます」と「ごちそうさま」に心を込めて

——「子どもにきちんとした食事の作法を身に付けてほしい」。そんな親の願いをそっと手助けしてくれるのが、和食、洋食、外食など様々な食事のマナーを学べる、高野紀子さんの『テーブルマナーの絵本』(あすなろ書房)だ。2011年の刊行以来、増刷を重ね、現在は26刷・19万部のロングセラーとなっている。

絵本制作のきっかけとなった「いただきます」と「ごちそうさま」に対するメッセージ。『テーブルマナーの絵本』(あすなろ書房)より

『テーブルマナーの絵本』の前に、『「和」の行事えほん』(全2巻)、『着物のえほん』(いずれもあすなろ書房)という絵本を出版しました。子ども時代に経験した四季折々の行事、母が手ずからつくってくれた行事食の数々を懐かしく思い出しながら制作しましたが、日本の伝統行事や文化について、深く考える良い機会にもなりました。

 次の絵本はどんなテーマにしようかな、と考えたときに、ふと頭に浮かんだのが「いただきます」と「ごちそうさま」のあいさつ。このことばには、命をいただくことはもちろん、私たちの食卓に関わるすべての人たちへの感謝の気持ちが込められています。子どもたちには「いただきます」と「ごちそうさま」を、食事のたびにきちんと言える人になってほしい。そうした思いが、『テーブルマナーの絵本』制作の出発点となりました。

どんなマナーにもちゃんと「理由」がある

——絵本には、クマのクンちゃんやウサギのウーちゃんなど、柔らかなタッチで描かれた動物のキャラクターたちが登場。クンちゃんのおばあちゃんが「マナーの先生」となり、やさしく食事の作法を教えてくれる。正しいマナーを意外に知らないという大人にも役立つ、本格的な内容だ。

イラストの点数が多く、企画から刊行までに3年ほどかかったという。料理に合わせた器も、ひとつ一つ高野さんがデザインした。『テーブルマナーの絵本』(あすなろ書房)より

「食事の作法」と聞くと、堅苦しく感じるかもしれませんが、マナーの背景にある理由を知ると、実はとても合理的なんです。例えば、お茶碗をいきなり持ち上げると、手がすべって中身をこぼしてしまうかもしれない。まずは右手でそっと取り上げてから左手に乗せると、安定しますよね。

 まよい箸やねぶり箸、指し箸といった「お箸でしてはいけない」決まりも、「お箸を振り回すと危険」「周りの人が不快な気持ちになる」といったことを避けるため。マナーは、一緒に食卓を囲む人と、楽しく食事をするための「思いやり」でもあるんです。

 絵本には、和食・洋食のマナーのほか、家族で行くことが多いファミリーレストランや、ファストフード店、回転寿司店など、身近な外食シーンで気を付けたいことも入れました。小さい子だと、はしゃいでしまって走り回ったり、大声を出したりしてしまうこともありますよね。それでつい親も「コラーッ!やめなさい!」と雷を落としてしまうけれど、そうなるとせっかくのお出かけ気分も台なしじゃないですか。

「周りの人への気遣いもマナーなんだよ、みんなが落ち着いて楽しくお食事できるといいね」ということを、絵本から感じてもらえるといいなと思います。読者の方から「これまで子どもにお行儀を注意してもまったく聞く耳を持たなかったけれど、絵本を読んでからは自然と振る舞いに気を付けてくれるようになった」という感想をいただいたときは、うれしかったですね。

マナーを守ることは文化を尊重すること

——「マナーは相手に対する思いやり」。高野さんが絵本に込めたメッセージは、各国の文化とマナーを紹介するページからも感じ取ることができる。

日本・中国・韓国でそれぞれ違うマナーの比較も。「『お隣の国でもこんなに違うんだ!』と興味を持つきっかけにしてほしい」(高野さん) 『テーブルマナーの絵本』(あすなろ書房)より

「お箸の国でもこんなに違う」というページでは、日本・中国・韓国、それぞれの国のマナーも紹介しています。日本では食事は残さずきれいに食べるように言われますが、中国だと招かれた席では少しだけ残すのが礼儀だそう。昔、上海に旅行したときに地元の方にご馳走してもらったのですが、「残さず食べると『足りなかった』という意味で逆に失礼になるよ」と教えてもらって。これも、知らないと戸惑ってしまう現地のマナーですよね。

 ほかにも、お皿やお椀を持ち上げて食べるのは日本だけで、中国や韓国では器を持ちません。だから、お箸が日本のものよりも長いし、汁物はレンゲやスプーンですくって食べます。同じアジアの国でも、文化や習慣によって、食器やお箸の長さ、食べ方まで違ってくるのが面白いなと感じます。

 マナーを守るということは、その国の文化や宗教などを尊重するという意思表示でもありますよね。絵本を通じて、日本の伝統文化はもちろん、他国の文化や習慣にも興味を持つ読者が増えるといいなと願っています。