
ISBN: 9784794974624
発売⽇: 2025/02/25
サイズ: 1.9×21cm/232p
「建築を見る技術」 [著]坂牛卓
建物を、使いやすさ、耐久力、美しさの三つ(用・強・美)の視点から見るのが「プロの建築の見方」。それらは計画学、環境学、構造力学、美学などの学問分野で講じられるものだという。
著者は建築家であり、大学で教鞭(きょうべん)も執る「プロ」であるが、本書は一般人が建物そのものをより深く創造的に味わい楽しむためのべつの見方――「見立て」を提案する。建築を、類似点や共通点のある異分野のものに見立て、一方にある特徴が他方にもあり得るのではないかと類推することで新たな発見ができるというのがその趣旨だ。
たとえば、「人の身体を包む」という共通点から、建築=服と見立てる。その観点で相互的に論じられる、建築家妹島和世の空間デザインとアンリアレイジの森永邦彦の服。服であるかのように意図的に小さく作られた茶室や坂本一成の町家と、肉体と服の間に空間を含むコム・デ・ギャルソンの川久保玲の「ダブダブ服」に共通する身体性や触覚の感得。さらに、ほぼ男女差のなかったバロック時代の服装に17世紀後半頃からいかに性差がつき、男性性優位の建築概念に影響を与えたかなど、「見立て」がより広範な社会や時代背景の把握をもたらし、視界や意識がどんどん拡(ひろ)がる興奮を味わえる。
同様に、建築を食、人間、自然、アート、音楽、広告に見立てる。自然や食物の腐敗や発酵の項を読むと、昨今話題の建築物の劣化も別の捉え方ができる気がしてくる。各章末に1冊「参考書」として挙げられる該当分野の本を読めば、さらなる知識拡大につながるだろう。
建築の見た目だけでなく性格も含めた「オヤジ建築」「妖怪性」など著者のネーミングも興味を惹(ひ)く。白黒だが写真も豊富なので、京都駅ビルなど既知の場所も新たな目で見に行きたくなる。一様ではない建築業界のあり方や収益なども一部明かされ、サービス精神いっぱいの「入門書」だ。
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さかうし・たく 1959年生まれ。建築家。主な作品に「リーテム東京工場」、著書に『教養としての建築入門』など。