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森迫永依さん 芸能界への再挑戦を支えた言葉。「正解を選ぶのではなく、選んだものを正解に」(第12回)

森迫永依さん=武藤奈緒美撮影

【今回のテーマ】夢から生まれる感情

俳句メモは12音で

 今回のテーマは「夢から生まれる感情」。MCの劇団ひとりさん、WEST.の桐山照史さん、ミュージシャンの川谷絵音さん、小説家の綿矢りささんとともに参加した森迫さん。「わたしの日々が、言葉になるまで」の面白さとは?

「小説や漫画の表現を一部抜き出して、深掘りするというのは、ふだんの読書ではやらないことなので大きな学びになりました。演技のためにいろんな表現や世界を勉強したいと常々思っていますが、自分が手に取る小説や漫画は限られているので、番組側がセレクトした未知の作品に出会えたのもうれしかったです」

 森迫さんは某バラエティ番組で俳句の才能が開花。「日々こと」でのコメントを聞いていても「言葉を知っているかた」だと感じました。俳句の魅力とはなんですか。

「俳句は昔から詠まれているもので、にもかかわらず、何一つ同じ17音がない。この、無限の可能性に惹かれます。17音でなんでも表現できるし、だからこそ、表すものと表さないものを取捨選択しなきゃいけない。それが難しくて楽しいです」

 ふだんはどんな風に言葉探しをしているんですか。

「歳時記や句集を読んで、こういう表現があるんだと思ったら、それをメモしたり、広辞苑をランダムに開いて出会った単語をもとに考えてみたり。歩いていていつもとは違う光景があったらそれをメモすることもあります」

 「夏がくれた気持ち」がテーマのときも、子どもたちに帰宅を促す町の放送を夏の表現として挙げていらっしゃって、すてきでした。

「ありがとうございます。日が長くなると帰宅を促す時間も4時半から5時、5時から5時半にと遅くなるんですよね。この間も、自販機の上になぜかかにぱんがあって。どういう状況?って気になってメモしました。メモするときは『自販機の上のかにぱん』というように、12音でメモするようにしています。そうすれば、あとはもう5音の季語を引っ張ってくるだけで俳句になりますから」

森迫永依さん=武藤奈緒美撮影

会社を辞め、芸能界に再挑戦

 今回のテーマは「夢から生まれる感情」。引用された作品の中で印象的だったものは。

「ひとつひとつの作品に心打たれたのですが、ビートたけしさんの『浅草キッド』はとくに心に残りました。『これからなにか悪だくみでもしに行くような気分だった』というフレーズがあったのですが、大人になってから抱く夢って、そういう子ども心とは遠いところにあると思っていたんです。大人は理性的だから、現実的な落としどころを見つけようとしたり、やっぱりできないよなって諦めたりするのが当たり前だと思っていたので、そうじゃない夢の追い方もあることが知られて嬉しかった。じつは私も、子役から芸能界に入りましたが、一度挫折して、一般企業に就職しているんです。でもやっぱりもう一度演技をやりたいと思って……。無謀な再挑戦でしたが、あの時の決断も今振り返れば、子どものようなワクワクから来ていた気がします」

 そもそも、なぜ就職しようとしたのですか。

「当時は『自分の可能性を広げるために』と思って就職を選んだのですが、今振り返ってみると半分は逃げだったと思います。もちろん、就職することが世の中の人にとって逃げだとは全く思いませんが、私にとっては逃げだった。この競争が激しい芸能界から退いて、安定を取ろうとしたんです」

 その安定を捨てて、また厳しい芸能界に戻る勇気はどこから?

「実は会社に内定頂いたときから悩んでいて。これでいいのかと思いながら働きだしたんです。その時の悩みが全部しょうもないことだったんですよ。残業が多いとか、もっと寝たいとか、そういう愚痴ばっかりでひとつも自分の成長の糧にはならない悩みで。お芝居をしていた時は、『もっとこういうお芝居がしたい』とか同じ悩むにしても実になる悩みだったんです。ああ、私は会社の仕事に対してパッションが弱いんだな、と気づいてしまって。結局、辞めることにしました。
 その時は、『親とか周りの人を心配させてしまう』なんてことは正直あまり考えませんでした。何よりも自分がいちばんハッピーになれる道を考えたら、それが夢を追うことだった。お金持ちになれなくても、貧乏でも、自分の心が豊かになるんだったらお芝居続けたいって思ったんです」

 番組で「諦めることでしかわからないことがある」というお話もされていましたね。一度芸能界を諦めて就職したからこそわかったことはなんですか。

「お芝居をすることを、こんなにも私は望んでいたんだっていうことに気づかされました。子役としてデビューし、よくわからないままこの道に入ったけれど、私はお芝居が大好きだったんだ、って。それに、安定志向だと思っていたけれど、挑戦が好きだということも。一度寄り道したからこそ、自分の夢への愛が大きくなりました」

森迫永依さん=武藤奈緒美撮影

綿矢りささんの言葉に共感

 他のゲストの方の言葉で印象的だったことは。

「綿矢さんがおっしゃった『淡々じゃないと続かない』という言葉に共感しました。私もお芝居することを大袈裟なことと捉えていなくって、自分の選択の先っちょにあるものだと考えているんです。もちろん紹介された漫画『ブルーロック』のように情熱的なガッツを持っていることも大切だけど、『お芝居が好きだから』と淡々とやってきたことが、積み重なって道のりになって、振り返ってみれば大きな夢になっていた、ということもあるんじゃないかな。
 今回、綿矢さんとご一緒できたのが本当にうれしくって。前回、引用された『手のひらの京』も読んでいたのですが、当時は20代前半だったので結婚に対する焦りなどまだ遠いこととして読んでいたんです。今なら全然違った受け取り方ができると思うので、今日家に帰ったら読み直そうと思っています」

 綿矢さんといえば、前回の「他人の不幸はどんな味?」というテーマで、他人の不幸を悲しみ、幸せを素直に喜べる森迫さんと、それを疑う劇団ひとりさんの攻防が印象に残ったそうです。川谷さんも見どころとして挙げていましたよ。

「攻防、ありましたね(笑)。でも後から考えてみると、きっと私も『他人の不幸は蜜の味』って思うこともあるんだと思うんです。そういう気持ちに気づきたくないだけなのかも。表現の幅を広げるためには、そういう汚い感情から目を背けずに、いろんな小説や漫画で疑似体験して、自分の中に新たな引出しを増やすことが大事だなと思いました」

 番組では最後に「今夢を追っている人にかけたい言葉」をそれぞれ考えました。ひとりさんは「有名人の語る夢を叶えた方法とかって大体が後付けです。」、桐山さんは「あなたにとってはそれが人生にとって必要な時間。」、川谷さんは「夢は背中合わせだから今は見えないだけだよ」、綿矢さんは「夢に食われるな」。そして森迫さんは「正解を選ぶのではなく、選んだものを正解に」。とてもすてきな言葉ですね。

「これは私が就職するかしないか迷っているときに、大学の先輩が掛けてくれた言葉なんです。それ以来、ずっとこれをモットーに生きています。結局、会社を辞めて芸能界復帰を選びましたが、その選択も淡々と努力を積み重ねて、正解にしていこうと思います。言葉はお守りにも指標にもなる。もっともっと色んな言葉を知りたいし、探求したいです」

【番組情報】
「わたしの日々が、言葉になるまで」(Eテレ、毎週土曜20:45~21:14/再放送 Eテレ 毎週木曜14:35~15:04/配信 NHKプラス https://www.nhk.jp/p/ts/MK4VKM4JJY/plus/。次回の放送は7月26日(土)20:45~。第13回~15回のまとめをお送りします。