第13回河合隼雄物語賞・学芸賞(河合隼雄財団主催)の授賞式が7日、京都市内であり、「あのころの僕は」(集英社)で物語賞を受賞した小池水音さんと、「僕には鳥の言葉がわかる」(小学館)で学芸賞を受賞した東京大准教授の鈴木俊貴さんが喜びを語った。
「あのころの僕は」は、5歳前後の体験を高校生となった主人公が回想する小説。選考委員の小川洋子さんは「幼い未熟な少年が抱えているあやふやなもの、混沌(こんとん)としたものを、あいまいさに耐える文体で表現したことが大変すばらしい」とたたえた。
小池さんは「大学生の頃に河合隼雄先生の著作を熱心に読んでいました」と語り、「(主人公の)天(てん)くんは、自分自身に静かに耳を傾けるというやり方で過去を思い出す。それは、河合先生のおっしゃっていた広い意味での物語にほかならない」とスピーチ。その上で、「河合先生がひらかれた物語の地平を少しでも耕せるような書き手になりたい」と話した。
「僕には鳥の言葉がわかる」は、シジュウカラの鳴き声に言葉としての意味や文法があることを、観察と実験で明らかにした一冊。選考委員の山極寿一さんは「読んでいると、まるで主人公の鈴木君になって軽井沢の森のなかを飛び歩いているような、じっと陰に身を潜めてシジュウカラの声を待っているような気分にさせられる」と語り、自然科学研究者の後輩である鈴木さんを「頑健なフィールドワーク精神と、とても大きな独創力を持っていると思います」と後押しした。
鈴木さんは「研究は本当に楽しくて、気がつくと1年のうち、長いと10カ月くらいを森のなかで鳥と一緒に生活するようになりました」と笑顔。自身が創設した「動物言語学」という学問の枠組みについて、「人間と自然のつながりを取り戻す上でも大切なんじゃないか。鳥の鳴き声が一つわかるだけでも、世界の見え方はがらりと変わる。これからも野外研究を頑張りつつも、成果が出たらまた本を書きたい」と話した。(山崎聡)=朝日新聞2025年7月16日掲載