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小松理虔さん「小名浜ピープルズ」インタビュー 生身の自分さらけだして

小松理虔さん

 人口10万人足らずの港町・小名浜(おなはま)に暮らす。工業や漁業が盛んで、人気の水族館やショッピングモールも。にぎわいは福島県いわき市内で一、二を争う。2011年の東日本大震災後に新しい魚市場や人工島が整備され、8月には常磐道の連絡道が開通した。

 初の単著『新復興論』(ゲンロン刊)で18年度の大佛次郎論壇賞を受賞した。震災と東京電力福島第一原発事故を正面から見据える「被災地発の論客」として注目されてきた。「地方の現場からもの申す地域活動家」の新境地は人物エッセーだ。

 「自らの意見を組み立てて問題提起するような『論』ではない文章が読みたい、というのが編集者の要望でした」

 互いの立場や主張をぶつけ合う「論」は大事。と同時に相手の考えを聞き、自分も変化するような対話も大事にしたい。この数年、福祉や医療・介護の現場に通い、考え方に変化が生じたという。

 「『自分はこう思う』と主張するだけでなく、『自分を曲げていかないと』と感じる場面がたびたびありました」

 船と人が行き交う港町は荒々しくも温かい義理人情の世界だ。個性は強烈。関係も濃い。記者もいわき出身なのでよく分かる。被災後の日常の中で「密」な関係を育む人々との対話をつづった。

 食堂の名物女将(おかみ)。鮮魚店の親方。老舗温泉旅館の当主。元東京電力社員の友人。博覧強記の先輩。県外出身の若い助手と話す中で「真の復興には当事者や被害者以外の『共事者』の存在が必要不可欠」と改めて感じた。

 相手の話に気持ちが揺れ動き、内省する自分の姿を書き留めたのは、震災から丸15年が近づく中で定型化する「語り」に抗してのことだ。

 「復興は壮大な実験。現場特有の事情に縛られつつも外に開かれている。復興でにぎわう小名浜の経験を広く伝える責任があります」

 サッカーJ2チームの新スタジアム構想があるが、工場の撤退・縮小表明も。変わりゆく港町で動き、考え続ける。

 「より生身に近い自分をさらけ出す本に。書き手として書きたいことが書けました」(文・写真 大内悟史)=朝日新聞2025年9月13日掲載