人気のピン芸人、ヒコロヒーさんが昨年発表した初の短編小説集「黙って喋(しゃべ)って」(朝日新聞出版)が、このほど第31回島清(しませ)恋愛文学賞(金沢学院大主催)を受賞した。高樹のぶ子、江國香織、吉田修一の各氏ら、そうそうたる顔ぶれが受賞した賞だ。「光栄なことと受け止めたい」と恐縮する。
収録された18編は、それぞれ異なる境遇を抱えた主人公たちが、恋愛や人生の階段の踊り場で発するセリフがさえわたり、読者の共感を呼んできた。
本の帯には吉本ばななさんと西加奈子さんもことばを寄せる。「私のことを知ってくださって、読んでくださっただけで十分うれしいこと」
作品に自身の経験が反映されているのかと思えば、「それはゼロ%のような気がする」。自分と重なるところがない登場人物たちに「しゃんとせいよ」と突っ込みつつ、「読後感は読み手次第。みなさんご自由に読んでいただければ」とヒコロヒーさん。
心理や情景への観察眼は、コントの台本づくりで磨かれた。笑わせるという縛りがない小説を書く上での苦労は「締め切りですね」。これからの創作活動についても「いま半端なことを言うと締め切りがこわい。締め切りがないものを書きたい」と、慎重な返答に徹した。(藤崎昭子)=朝日新聞2025年9月17日掲載