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「らしさ」は不変でも普遍でもないことがわかる「入門 男らしさの歴史」 佐藤雄基の新書速報!

  1. 『入門 男らしさの歴史』 弓削尚子著 ちくまプリマー新書 1034円
  2. 『日本の後宮』 遠藤みどり著 中公新書 1100円

 男(女)らしくないと言われた経験のある人は、今日でも少なくないだろう。西洋近代史家による(1)は、歴史学の最先端分野となる「男性史」研究の待望の入門書である。近代日欧の様々な事例や写真・図版を駆使しながら、「男らしさ」の規範がどう時代によってつくられ、変化してきたのかを描く。徴兵制と兵役拒否に注目し、規範に適応できなかった人たちの姿を丁寧に掬(すく)い上げると同時に、軍隊と性暴力に焦点をあて、適応した者が抱え込んだ苦悩や暴力性をも浮き彫りにする。男女問わず「らしく」あろうと無理する姿は過去のものではない。「らしさ」は「不変でも普遍でも」ないと歴史に学べば、私たちは少し楽になれるだろうか。

 日本古代史家による(2)は、男性君主のために集められた女性たちが住まう後宮の変遷を軸として、古代日本における女性の社会的地位の変化を論じる。子どもが父方・母方のどちらに属するか流動的で、男女の社会的格差が小さい双系的な親族構造をもつ古代の社会から、父方の血統が重要な父系社会に移行する過程に、世襲王権、女帝、皇后、後宮、摂関政治の成立という古代政治史の基本問題を構造的に位置づけようとする野心作。父系化は出自による身分の固定化を生み、男性の生き様にも変化をもたらした。父系社会からの脱却を目指す現代においてこそ、従来とは異なる発想で未来を考えるために、父系化の端緒に遡(さかのぼ)って歴史を学ぶ必要を感じる。=朝日新聞2025年9月20日掲載