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大局的に問い直す鮮やかな分析「フェミニズム」 中村佑子の新書速報!

  1. 『フェミニズム』 江原由美子著 岩波新書 1166円
  2. 『21世紀を動かす思想 加速主義・プルラリティ・SFプロトタイピング』 樋口恭介著 集英社新書 1100円

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 (1)は第一線で学問的磁場を支え続けてきた大家による満を持しての一冊。著者はフェミニズムの始まりを市民革命による近代社会成立に見る。フランス革命時、啓蒙(けいもう)思想の勃興により女性たちもまた市民権を主張するも退けられた。女性には「理性がない」から。平等な人権を掲げた啓蒙思想に支えられた近代社会はその実、人間と非人間を理性で区分した。これに異を唱え始まったフェミニズムはそもそもが近代社会の問い直しであり、私たちの「普通」を批判的に看破し問いを創立する「模索史」だという言葉に胸が熱くなる。著者の筆は常に冷静で大局的。各国の歴史を、女性労働力の利用と戦争との拮抗(きっこう)関係でたどり直す鮮やかさに息を呑(の)んだ。世界史が別様に見えてくる。学ぼうとする者が最初に手に取る一冊になって欲しい。

 (2)は歴史の転換点と呼ぶのも甘いほど、産業革命規模の変革を迎えている今、AI時代の思想潮流を概観しつつ、各人が未来のデザイナーになることを勧める。加速主義(既存システムの制約なき推進)にも左派やエコ派があり経済効率優先でない方向に拡大させる考え方があることに納得するし、プルラリティ(多元主義未来)は、熟議民主主義を活性化し多様性を包括するなどAI時代の思想にも可能性を感じる。ただ網羅的な筆致と相まって、語られる未来がAI的に感じ、大いなる逸脱や間違い、不分明な創発にこそ人間は未来を感じるのではと逆説的皮肉を感じなくもない。=朝日新聞2026年37日掲載