「爆心を見つめて」『「ナガサキ」を生きる』書評 被害実態を解明し記憶をつなぐ
ISBN: 9784022520708
発売⽇: 2025/07/18
サイズ: 18.8×1.6cm/240p
ISBN: 9784750518817
発売⽇: 2025/07/25
サイズ: 18.8×2cm/276p
「爆心を見つめて」 [著]鎌田七男、宮崎園子/『「ナガサキ」を生きる』 [著]高瀬毅
原爆の被害実態を把握・解明するために最初に立ち上がったのは市民たちであり、行政ではなかった。だが、だからこそ原爆の問題と運命的な出会いをする人々は絶えない。自分が、あるいは親族が被爆者である場合に加え、天命のようにそれに出会い、伝えなければという想(おも)いに駆られる人もいる。
医師の鎌田七男氏は広島出身ではないが、被爆者を診断し、核兵器のもたらす健康被害を研究することに一生を捧げてきた。その言葉を宮崎園子記者が書き留めた。
1960年代になっても原爆による死者の数や被害の大きさは明らかにされていなかった。鎌田氏らは被爆者がどこにいたか、汚染された水を飲んだ可能性など、細かい聞き取りにより被害の実態を科学的に明らかにしていく。そして原爆が将来にわたり健康不良と不安を与えることをつきとめた。鎌田氏はそれを「生涯虐待」という言葉で表現する。
被爆二世である高瀬毅氏は、自身も含め原爆を直接体験してはいない人々が「原爆と向き合う人生」を選んでいく様を描き出している。最初に紹介されるのは70年代に会社を辞めて一人で全国の被爆者約千人の体験を録音した伊藤明彦氏である。
同時に本書は「長崎がなぜ原爆投下地点になったのか」を米軍の作戦や当日の気象・技術条件から改めて緻密(ちみつ)に検証する。その記述から読者は気づかざるを得ない。恐ろしいほど不運な偶然により長崎は原爆投下地となった。言い換えれば、長崎の犠牲と引き換えに救われた都市がある。だが、そのことが忘れられている。
二度と核兵器を使わせたくない、と著者らは共に述べる。同時に、この社会の行く末を案じる。とりわけ高瀬氏の指摘は鋭い。私たちは原爆を正当化する「戦争の文化」に呑(の)み込まれつつあるのではないか。記憶をつなぐことでそれにノーを突きつけたい。
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かまだ・ななお 広島大名誉教授、医師。みやざき・そのこ フリーランス記者▽たかせ・つよし ノンフィクション作家。