1. HOME
  2. 書評
  3. 「これはいつかのあなたとわたし」書評 笑いながらほっとする

「これはいつかのあなたとわたし」書評 笑いながらほっとする

評者: 野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2025年11月01日
これはいつかのあなたとわたし 著者:燃え殻 出版社:新潮社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784103510161
発売⽇: 2025/09/25
サイズ: 12.2×18.2cm/216p

「これはいつかのあなたとわたし」 [著]燃え殻

 みじめな話が多い。情けない話が多い。トホホな話が多い。何も同じような言葉を三つも並べなくてもいいのだが。
 で、自虐ネタは逆に余裕が透けて嫌味(いやみ)になったり、卑屈になって味の悪いものになったりしがちなのだけど、この人の自虐は、だいじょうぶ、素直にストレートに、あ、こりゃひどいやと受け取れる。いや、それってただかわいそうなだけじゃん、と思いきや、あんまりかわいそうな気もしない。笑えてしまう。
 例えば、一番悲惨なのはこれかな。著者は緊張すると失神してしまうタイプの人で、初めてラブホテルに行ったときのこと、風呂場で失神。××も××も漏らして、彼女が鼻をつまみながら世話をしてくれた。でも、読んで笑っても、なんだかなんとなくほっとするのだ。ラブホの相手も「ったく、大変な人だなあ」と笑っていたという。
 自分の弱さをさらけ出しながら、こっちの弱さを受け入れてくれる感じがするから、笑いながらもほっとするのだろう。やっぱり著者の人徳のしからしむるところ、なんだろうなあ。