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山田風太郎賞に「神都の証人」「ミナミの春」 2作同時受賞「圧倒的な面白さと技量」

山田風太郎賞に決まった大門剛明さん(左)と遠田潤子さん

 今年の山田風太郎賞は、大門剛明さんの「神都の証人」(講談社)と、遠田潤子さんの「ミナミの春」(文芸春秋)に決まった。2作同時受賞は、2012年以来2回目だ。10月20日の会見で、選考委員の桜木紫乃さんは「最後に残った2本の、圧倒的な面白さと圧倒的な技量を比較して、どちらかを落とすことはできなかった」と称賛した。

 「神都の証人」は、冤罪(えんざい)をテーマにしたリーガルミステリー。桜木さんは「一人一人の登場人物と知り合える快感があり、小説を読む面白さを強く感じる作品だった」と評した。

 大門さんは09年に横溝正史ミステリ大賞を受けたデビュー作でも冤罪を扱っていた。その後も、冤罪というものを描き切れていないという思いが湧き上がり、何度も書いてきた。「救われないもの、取りこぼされているような存在に感情を重ねてしまう」

 こだわり続けてきたテーマを「最高の形で昇華させたい」と、集大成のつもりで臨んだ作品で受賞が決まった。大門さんは、「本当にうれしく思います」と喜びを語った。

 「ミナミの春」は、大阪・ミナミを舞台に、姉妹漫才師らを描く群像劇。桜木さんは、「とにかく技術的なことにおいては誰も文句なしでした」と選考を振り返った。

 遠田さんは大阪生まれで、南大阪で暮らしてきた。「一番なじみのあるのはミナミ。そこなら、勝負ができるんじゃないか」と考えたという。大阪を描くにあたっては「大阪って言っても全員が一日中笑っているわけでもないし、全員が漫才師なわけでもない。ウェットなところもちょっとは書きたいなと思っていました」。

 受賞は予想外だったといい、「分かっていたらでっかいミャクミャクのぬいぐるみを持ってきたのになと悔しいです」。17回通ったという大阪・関西万博への愛もあふれた。(堀越理菜)=朝日新聞2025年11月12日掲載