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「廃線だけ 昭和の棄景」書評 なぜ美しいのか? ゴミなのに

評者: 野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2025年12月06日
廃線だけ 昭和の棄景 著者:丸田 祥三 出版社:実業之日本社 ジャンル:趣味・実用

ISBN: 9784408338545
発売⽇: 2025/10/09
サイズ: 14.6×22.6cm/166p

「廃線だけ 昭和の棄景」 [著]丸田祥三

 ゴミは美しくない。しかし、これらは美しい。だから、これらはゴミではない。でもやっぱり、これはゴミに違いない。ゴミたちの写真集。最後のページを見たとき、一瞬なんだか分からなかった。なのに強く迫ってくる。あ、新幹線0系の団子鼻だ。一九六四年にデビュー、夢の超特急と呼ばれた。廃車になり、放棄され、片付けられてしまう前にこの写真は撮られた。白黒で写された顔は一面こまかいひびで覆われ、老醜を晒(さら)していると言うべきなのかもしれない。しかし、美しいのだ。ゴミなのに。
 廃車、廃線、廃駅。ほとんどが国鉄民営化以前のものだから、民営化の犠牲者とばかりは言えない。役割を全うして、打ち棄(す)てられたものたち。多摩川の砂利を運んだ下河原線。私が少年時代を過ごした土地にあった。もう線路はなくなっているけれども、この写真の頃はまだ残されており、その上をふつうに家族連れが歩いている。
 取り残された橋脚、不穏な雲、群れ飛ぶ鳥。そんな風景が見開きいっぱいに広がる。それをきちんと見せるようにページが完全に広がる。ぜひ本の綴(と)じ方も見てほしい。
 これらの写真は記録としての意味も大きい。というのも、こうして棄てられたものたちの多くはもはや棄てられたものとしてさえ残されていないから。だが、それ以上に私はその写真の放つ力に息を呑(の)んだ。その力は写真家が吹き込んだものでもあるだろうが、それは写されたものたちが元々もっている力にほかならない。それを、カメラが引き出し、私たちに見せてくれるのだ。
 丸田さんは子どものころ、終わらないということに恐怖を感じていたという。廃線の途切れたレールはむしろホッとできる光景であった、と。そのまなざしが、終わりを迎えたものに向けられている。そして私も、その風景に共鳴している。だが、いったい何に?
 ――ああ、そうか。私もまた、ゴミなのだ。
    ◇
まるた・しょうぞう 1964年生まれ。写真家。『棄景』で日本写真協会新人賞。他の著書に『鉄道廃墟』『廃道』など。