評者: 隠岐さや香
/ 朝⽇新聞掲載:2025年12月20日
中島梓と「やおい」の時代—「1968年」の「革命」を視座として (未発選書 33巻)
著者:金子亜由美
出版社:ひつじ書房
ジャンル:文学・評論
ISBN: 9784823413100
発売⽇: 2025/10/20
サイズ: 13.3×19.2cm/368p
『中島梓と「やおい」の時代』 [著]金子亜由美
BL(ボーイズ・ラブ)は主に女性読者を想定した男性同性愛物語で、かつて「やおい」と呼ばれた。その初期の作家は学生運動世代である。だが、この事実は不思議なほど意識されず、やおい/BLは全体的に脱政治的で娯楽的なジャンルとみなされがちであった。
しかし、実はやおい/BLは1968年の「革命」の申し子なのではないか。本書はその問いから、やおいの本質を男性同士の愛ではなく性暴力による支配・被支配の「階級闘争」にあるとみなした中島梓の作品に立ち戻る。そこには学生運動文化の影響や、彼女が遭遇した物理的な暴力・支配関係のトラウマ的記憶が読み取れるという。
中島は集団力学が支配した政治運動を嫌悪し、居場所を見出(みいだ)せず、シニカルな自嘲と共に「生きのびるために必要な狂気」としてのやおいへと向かった。そして多くの作家たちが後に続いた。
やおい/BLは抵抗か、あるいは中島自身が懸念したように、享楽的な商業主義に回収される定めにあるのか。本書は安易な解答を許さず、思索の途を開いている。