衰えゆく独り暮らしの父。離れた場所から見守る著者。そこには、父と娘、互いの都合に折り合いを付けながらも、ふたりの生活を両立させるための知恵が満ちている。
それは、コスパよく手に入れることのできる知識ではない。父との関わりに伴う怒りと冷汗(ひやあせ)、そして深い情愛の結晶だ。
親子という近すぎる関係から生じる感情に呑(の)まれないための努力と工夫は、涙ぐましさを超えて、エンターテインメント性に溢(あふ)れていて面白い。
父をローリング・ストーンズのミック・ジャガーに見立て、娘は「フジロック」を主宰するミックの招聘(しょうへい)元と自身を例える。
一筋縄ではいかない父のパーソナリティーを大物ロックスターに重ねることで冷静に受け止める知性は素晴らしい。
娘は清潔かつ居心地のよい部屋の維持、健康的な食事、体力づくり、という3つの目標を掲げ、そのバランスの重要性に気付く。父の人間関係や家事サポートを活用しながら、父の自立生活を遠隔操作する娘の手際は見事である。
その過程で生じる葛藤を問題解決型ロジックを駆使しながら整理し、乗り越えていく様はまさに現代社会の家族介護を象徴していて、学びが多い。
けれども、この本の核心は、父の老いを自分に重ねたときに感じられる、娘の寄る辺なさにあるのかもしれない。
老いとは不可逆的な機能不全のプロセスである。人為的に管理することのできない自然の摂理の下に私達(わたしたち)はどのように生活すべきなのか。介護保険制度は持続可能か。お金はどれだけかかるのか。いったい誰が老いた私に寄り添ってくれるのか。喪失を生きる老人の尊厳とは何かを深く問いかけてくる。続きが気になる書である。
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新潮新書・990円。25年8月刊。6刷12万部。40~60代が主な読者層。「介護未満」という語の反響が予想以上で、人気コラムニストが父の健やかな独居をめざし「ビジネスライクに」臨んだ点にも共感が寄せられている。=朝日新聞2026年1月10日掲載