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「馬のこころ」書評 この、賢くて、愛おしい生き物よ

評者: 吉田伸子 / 朝⽇新聞掲載:2026年01月17日
馬のこころ──人の相棒になれた理由 (岩波科学ライブラリー 339) 著者:瀧本 彩加 出版社:岩波書店 ジャンル:科学・テクノロジー

ISBN: 9784000297394
発売⽇: 2025/11/18
サイズ: 1.1×18.2cm/158p

「馬のこころ」 [著]瀧本彩加

 本年最初の書評に、この本を選んだのは、今年が午(うま)年だから、ではない。正直に書きますが、2年前から再び始めた競馬が、勝ったり負けたり負けたり負けたりだから、である。何たってタイトルが『馬のこころ』ですよ。ウマの心理が分かれば、競馬の予想に役立つ(そしてぐんと勝率が上がる)のでは、という大変下衆(げす)なココロからなのでした。
 が、そんなけしからんココロは、読み進めるうちに雲散霧消。なぜならば、本書は全編これ、動物心理学・比較認知科学が専門の著者・瀧本さんの「ウマ愛」に満ちた一冊だからだ。どこをとっても、ウマという生き物への愛とリスペクトが詰まっている。焦点にあるのは、「ウマのコミュニケーション能力」。
 元々、ウマの賢さは知られていて、そのことは「老いたる馬は路(みち)を忘れず」という故事成語や、モンゴルの民話である『スーホの白い馬』(何度読んでも落涙)などからもわかるのだが、本書はそのことを一つずつ科学的に実証していく。
 第1章、第2章で扱われる「ウマが築く絆」の話から始まり、第3章~第6章では「ウマのコミュニケーション能力」を紹介することで、「ウマがヒトの相棒になった理由」に迫っている。最終章である第7章「ウマとともに歩む未来」では、「ウマとヒトがよりよく共生する未来に向けて動物心理学ができること」にまで踏み込む。
 どの章もおぉっ!となるのだが、中でも、ウマがお手本を見て学んだり、困ったときにはヒトを頼ったりする(!)ことを明らかにした第3章、ウマがヒトの感情を推理していることを明らかにした第4章では、ウマの能力の高さに唸(うな)ってしまう。ウマどうしの諍(いさか)いを仲裁するウマが紹介される第5章では、もはやウマはヒトよりも優れた生き物なのでは、と思う。
 ウマ好きには勿論(もちろん)だが、そうでない人にもぜひ読んで欲しい。きっとウマが好きになるから。
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たきもと・あやか 1984年生まれ。北海道大准教授(動物心理学、比較認知科学)。共著に『恋する人間』など。