一冊に集約されたパワーの大きさ
――東野圭吾さんというとミステリーの印象がありますが、今作はファンタジー要素の多い物語でした。お二人は原作を読んで、どんな感想を持ちましたか?
高橋文哉(以下、高橋):僕はお話を頂いてから原作を、その後に台本を読んだのですが「本っていいな」と思いました。想像しやすいけれど「ここはこうですよ」と決めつけず、それでいて読み手任せではない感じもして、一冊に集約されているパワーがとても大きいなと感じました。今作の台本を読んだ時も、作り手の皆さんが原作の良さを大切にしようという愛が伝わってきたので、僕もそこを大切に演じていこうと思いました。
天海祐希(以下、天海):私は自分が演じる千舟さんの視点で読んだのですが、彼女の抱えるものや背景は胸に来るものがありました。ずっと後悔を抱えながら、表向きは凛として、自分を律してきた人というところが頼もしくもあり、切なくもあって。そんな人が、人生の終焉に向かっている中で見つけた希望が玲斗なんです。なかなか自分の弱みを見せられなかった人が玲斗にだけ心中を吐露するところや、後悔の先に出会った彼のことをどれだけ大事に思っていたんだろうと想像すると、やるせない気持ちになりました。痛いし切ないし苦しいんだけど、その根っこには深い優しさがあって「心温まる」という一言だけではすまない作品で、胸が震えるような思いで読みました。
――東野さんは原作について「人殺しの話ばかり書いていると、時折ふと、人を生かす話を書きたくなるのです」とコメントしていますが、お二人はどんなものを感じ、受け取りましたか。
天海:東野先生のお書きになる文章は、どの作品にも人に対する温かさがあって情にあふれているなと感じます。例えばミステリーで描かれる犯人に対しても、どこかしらに救いや優しさがあるんですよね。本作も何か大きな温かいものに包まれる感覚になるのは、さきほど高橋くんも言っていたように、受け取る側に「こうですよ」と決めつけず、すっと入ってくるものがあって「ここからたくさん拾えた人勝ち!」という感じもして。私は原作を昨年読んだのですが、きっと今読んだらまた違うものを感じ取ると思うんです。そういう本は生涯に一冊、出会えるかどうかだなと思います。
高橋:きっと、見る方の年代によっても受け取るものが違うんだろうなと思います。
それに、東野さんが描く登場人物一人ずつに、ちゃんと「人」としての魂が宿っているなと感じるので、どこかキャラクターとして見られない部分もあるんです。それぞれに人間らしさが備わっているので、人として見ることで自分に照らし合わせたときに何のフィルターもなく、すんなりと投影できるところが素敵だなと思います。
――お二人が一緒にアフレコしたのは一日だけだったそうですね。
天海:最初に高橋くんの声を聞いた時、私のイメージしていた玲斗にぴったりだったので驚きました。アフレコも本当に上手で「私も頑張らなきゃ!」と思いましたね。
高橋:千舟さんの雰囲気をまとった天海さんにお会いした時、玲斗と同じような緊張感を持ちつつも、大きな信頼を勝手に感じていました。作中で、玲斗が千舟さんからお箸の使い方から人生観のようなことも教えてもらう中で成長していくように、僕も天海さんとご一緒させていただいている間に「どこか成長した姿を見せられるようになりたいな」という気持ちでいました。
僕は伊藤監督から「そのまま、ありのままでいいです」と言われていました。「そのままって何だろう?」と模索しながらも、日が経つにつれて監督の「そのままでいてほしい」という理由が分かってきた瞬間があったんです。それが分かるようになると、昨日よりも今日の方が楽しかったですし、その経験がどこか玲斗と重なって、僕自身も今作のアフレコ期間で成長できたのかなと思います。
天海:本作のたくさんあるテーマの一つに「成長」があると思うのですが、千舟さんも玲斗やいろいろな人に出会って、様々な出来事が起こるにつれて成長する姿が描かれています。なので「ここはこうしよう」と意識して演じたというよりは、物語が進んでいく過程に沿って演じました。
――印象的だったセリフやシーンを教えてください。
高橋:素敵な言葉やシーンはたくさんあるのですが、僕は玲斗が老舗和菓子メーカーの跡取り息子・壮貴に「地位があって、金があって、親がいて、まだ足りないんですか⁉」と言うセリフが特に印象に残っています。演じていても本を読んでいても「分かるな」と思う自分と「分かりたくないな」と思う自分が混在しているような感覚になりました。ある種の劣等感や嫉妬心は誰もがあると思うのですが、それを言葉にして相手に伝えることができるところが玲斗の強さなんだろうなと思います。僕も思ってはいたけど言葉にしたくない、言えなかったことが過去にあって「未熟だったな」と自分を振り返るきっかけになったセリフでした。
天海:私は千舟さんの「変わろうと思えばいつでも変われます。少なくとも、自分自身の心は」というセリフですね。多分、玲斗にも自分にも向けて言っている言葉だと思うのだけど、それを玲斗の前で口にした千舟さんの変化を感じられていいシーンでした。きっと、千舟さんは玲斗と出会ってからずっと救われていたのだと思います。成長していく彼の姿に自分も少し感化されるところもあって、高橋くん自身が持っている「いい抜け感」ともぴったりでした。
原作を読んで世界が広がった
――本作以外に読んだことのある東野圭吾作品を教えてください。
天海: 私は『容疑者Xの献身』や、出演させていただいた『聖女の救済』を読みました。今作もそうですが、東野先生のお書きになる言葉はいろいろな人に寄り添っていて、それが犯人であろうとどこか希望があるんですよね。以前、東野先生とお会いした時に「どんな人でも感情の流れがせき止められずに、すっと寄り添って読めるのはどうしてなんでしょう?」とお聞きしたら「自分がこうしていこうと思うよりも、転がっていく方に筆が流れていく。感情が流れる通りをせき止めないようにすると、どんどんその役が動いていってくれるんです」とおっしゃっていました。
――演じる視点で読むと、より感情の流れがご自身に入りやすいのでしょうか。
天海:そうですね。東野先生が描かれる人間描写はとても細かく丁寧で雑味がないので、その情景が受け取りやすいんです。知らないうちにいろいろな人の気持ちになって感情が動いて、自分の想像しているものが画になる嬉しさもあります。
高橋:『クスノキの番人』もまさしくそうですよね。ひとつひとつのセリフはもちろんですが、言葉ではない部分が説明的ではなく、自分で想像させてくれる繊細な描写で「これがどんな風にアニメーションになるのかな」とワクワクしながら読みました。
僕は中学生くらいの時に『ガリレオ』シリーズのドラマを見て、その少し後に原作を読みました。もちろんドラマでしかできないこともあるけれど、本という文字でしか読み取れない人間の心情描写があって、僕は原作を読んでもう一段階、世界が広がったように感じたんです。これまで小説や漫画など様々な実写化作品をやらせていただきましたが、今作を経験させていただき、より表現の幅を広げていける役者になりたいと思いました。
天海:今作は、原作と映画、どちらから入ってもいいと思うのですが、文章からさらに受け取れるものや染み込んでいくものが多い作品なので、ぜひ原作も手に取っていただきたいと思います。
誰もが誰かのクスノキ
――映画を見る方に、この作品からどんなものを持ち帰ってほしいと思いますか?
高橋:この作品にはいろいろな面があって本当に幅が広いので、僕は平らではなく「○」のような作品だなと思っているんです。見る人の角度やタイミングによって感じ方も変わると思うので、この作品に携わった側から「これを持って帰ってください」ということはないんだろうなと思いますが、でも「絶対に受け取っていただけるものがある」ということは確信しています。
天海:今作は「クスノキ」が中心になって様々な人の心情が描かれているのですが、映像に出ていないところでもずっとクスノキの存在があるんですよね。きっと誰にでも自分の思いを伝えて、受け取ってもらえるクスノキのような存在があって、誰もが誰かのクスノキなのだと思います。この映画を見てくださる方にも、ご自分の「クスノキ」を振り返る、もしくは探してみる。そして「あなたは誰に何を伝えて、誰のどんな気持ちを受け取りたいですか?」ということを考えるきっかけになる作品だと思っています。
私たちも声を当てながら、東野先生がこの作品の中に込めた大きな優しさに包まれました。「人はいつからでも成長できますよ」「あなたも誰かに何かを届けられますよ、誰かから受け取れますよ」という優しさに、ぜひ皆さんも包まれてほしいなと思います。