NHKの大河ドラマ「豊臣兄弟!」が始まった。百姓から天下統一を成し遂げた豊臣秀吉、秀長兄弟の物語だ。木下昌輝さんは、この兄弟に仕えた実在の料理人、大角与左衛門(おおすみよざえもん)に光を当て、小説「豊臣家の包丁人」(文芸春秋)を書き上げた。
木下さんが大角を意識したのは、2016年の大河ドラマ「真田丸」がきっかけだった。作家になる前に、ライターとして飲食店の取材をしていたことがあり、料理人の姿を書いてみたいと思っていた。デビュー初期に秀吉の話を描いたことで、大角の物語は書きにくくなっていたが、大河ドラマが「豊臣兄弟!」になると知り、今なら、と飛びついた。
料理を題材にして描きたかったのは、「家族」だという。「料理がないと家族にならないとは思わないけども、家族の色づけをするのは間違いなく料理だと思う」
客員教授をしている大阪芸術大で学生に、今までで一番印象に残っている料理について話してもらったところ、家族が関わるエピソードが多かった。「料理を通して家族を見ると、立体感が出ると思った」
作中には、様々な料理が登場し、物語を動かしていく。料理に詳しい友人に協力してもらいながら、アイデアを出していったという。
たとえば、出世をめざして戦働きに邁進(まいしん)する藤吉郎(秀吉)と、止めようとした小一郎(秀長)は衝突し、疎遠になる。そこで大角が小一郎に振る舞ったのは、捨てるはずの雉(きじ)の内臓を使った汁だ。大角の味噌(みそ)を使えば、内臓もえぐみや臭みがなくなり絶品になる。〈藤吉郎は確かに食えない男だ。が、それも味噌次第だろう〉。大角は、兄弟のお前以外にだれが藤吉郎を「料理」するのかと諭してみせる。
大角の料理は、人々の心をつなぎ、時には調略にも一役買って、兄弟を支える。だが、大坂夏の陣をめぐっては、そのすご腕の料理人が豊臣家の台所に火を放ち、徳川の勝利に寄与した――。そんなうわさが駆け巡る。
大角は、長年仕えてきた豊臣家を裏切ったのだろうか。豊臣家を継いだ秀頼と最後に交わしたやりとりとは。
「歴史の空白に、フィクションをぶち込むのが歴史小説の醍醐(だいご)味だと思う」と木下さんは話す。空白の埋め方に、作家の個性が出る。「どれだけアクロバティックな発想ができたかを競い合える面白みがあります」
読者にも、歴史の空白を自由な発想で楽しんでほしいという。自分が秀頼なら、大角なら、どのような決断をするだろうか。「自分事になる作品にしたいと思った。立ち止まって考えてもらえたらうれしいです」(堀越理菜)=朝日新聞2026年1月21日掲載