初の連覇へ、自己を高める年に。「思考の整理学」に学ぶ「深化」の方法 中江有里
オフシーズン、野球ファンはどう過ごしていますか?
本連載をまとめた『日々、タイガース、時々、本 猛虎精読の記録』(徳間書店)を刊行したおかげで、オフシーズンも本関連のインタビューを受けたり、出版イベントを開催したり、野球に満ちたオフシーズンとなっている。
2月の沖縄キャンプ、3月からのペナントレースの試合日程も発表された。
さっそくスケジュール表に書き込み、どれくらい現地観戦できるかを探っている。
2月から9月末までのスケジュールは、阪神の試合で決めている。
仕事の日程は何とかなっても、阪神の試合は動かせないから。
先日、阪神ファンの父に「こんなに試合を見て、本読めているんか?」とけっこう本気で心配された。お父さん、そう心配せんでも。この連載は続いてるから大丈夫。
あらためて記すと、私は子どもの頃からの本好きが高じて、ある時期から小説やエッセイを書くようになった。
今も本は好きだし、同じくらい阪神タイガースが好きになった。
阪神が勝っても、負けても、自分の気持ちを言語化したくなる。
「野球」の魅力とは。「応援」とは何か。「悔しさの正体」とは。まだまだわからないことが多い。でも、わかったら面白くない。
わからないから、ハマるのだ。
話は変わるが、現在選手たちは、それぞれの場所で自主トレに励んでいる最中だ。
昨年の日本シリーズ終了後に藤川球児監督は「2025年のチームを壊す」と言った。
セ・リーグ最速優勝した固定の打線を、いったん白紙にする!
誰もが安泰じゃない。誰にもチャンスがある、とも言える。
そしてリーグ優勝チームである阪神は、他球団に研究され、弱点を探られているに違いない。
チーム内側、ペナントレースが始まれば外側での闘いが起きるのは必然。
そんな中、昨年の最多勝、最高勝率、最多奪三振の「投手三冠」を手にした村上頌樹投手が発した「深化」という言葉が心に留まった。
「進化」ではなく「深化」。
この言葉に私はハマった。
外山滋比古『思考の整理学』は1986年発売のベストセラー本。私が持っている本の奥付には2007年発行39刷りとある。40年前の本だから、取り巻く状況は今とずいぶん変わっているが、スマホもAIもなかった時代に書かれた人間の思考は、たぶんあまり変わらない。だから今でもこの本は通ずるのだ。
学校教育に言及する一文がある。
「いまの学校は、教える側が積極的でありすぎる。(中略)学習者は、ただじっとして口さえあけていれば、ほしいものを口へはこんでもらえるといった依存心を育てる。学校が熱心になればなるほど、また知識を与えるのに有能であればあるほど、学習者を受け身にする」
今の教育に対する苦言のようだ。40年前(私は小学5年生)も今もあまり変わらないのかも。
ずっと昔、幼い子は漢文の素読をしていた。先生は意味を教えない。生徒は意味も分からず暗誦するうち、漢文の意味を知りたいと思い始めた。
「知りたい」「わかりたい」という欲求は、学びの始まりだ。
そう、学びの方法はさまざまで、正解はない。
私の場合は読んできたら、書きたくなった。どうやって書くか知りたくて、さらに読んだ。
読めば文章が上達するかはわからない。ひらすら書く読むを繰り返して、今に至る。
村上投手が言った「深化」の意味は自分のスタイルを変えるのではなく、深めていくこと。やることは変えずに、深める。
深く掘り下げていくことは、目に見える変化がない。地味で成果がわかりにくい。
でも自分の内側を深掘ることは、これ以上なく堅実な方法かもしれない。
「投手三冠」を獲得した自分の力とポテンシャルを信じて「深化」を選んだのだ。
一方で、固定された打線を壊すのは怖い。
ドラフト1位で立石正広選手を獲得し、キャム・ディベイニー選手もやってくる。ポジション争いが活発になれば、選手たちはこれまで以上に切磋琢磨する。
それはチームの強化につながる。
阪神には球団初のリーグ連覇と日本一という「宿題」が残っているのだ。
「深化」と「強化」の両輪で答えていくしかない!