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「こどもと民主主義をつくる」/「教育とは何か」書評 試行錯誤しつつも未来へ向かう

評者: 隠岐さや香 / 朝⽇新聞掲載:2026年03月07日
こどもと民主主義をつくる: 教育にできること 著者:藤原 さと 出版社:平凡社 ジャンル:教育・学参・受験

ISBN: 9784582731125
発売⽇: 2025/12/17
サイズ: 13.4×18.8cm/272p

教育とは何か 著者:ティム・インゴルド 出版社:亜紀書房 ジャンル:人文・思想

ISBN: 9784750518824
発売⽇: 2025/09/12
サイズ: 18.8×2.5cm/328p

「こどもと民主主義をつくる」 [著]藤原さと/「教育とは何か」 [著]ティム・インゴルド

 「紛争を回避するのは政治の仕事ですし、平和を建設するのは教育の仕事です」
 『こどもと民主主義をつくる』の冒頭で紹介された教育者モンテッソーリの言葉に、なんだか胸が苦しくなった。著者は「大人たちは、いとも簡単に自分たちの自由を奪うものに熱狂してしまう」とも述べる。アメリカに詳しく、トランプ政権による社会の変貌(へんぼう)を目撃しているだけに、教育と民主主義をつなごうとするその言葉は切実さを帯びている。
 本書の扱う「民主主義」は、いわゆる議会や投票などの政治よりも「ずっと大きいもの」である。それはたとえば、子ども同士のおもちゃを使う順番を決める話し合いなど、日常を支える対話の営み全てを包み込む。
 著者は大学で政治学を学んだが、会社勤めや子育て経験を踏まえ、一般社団法人「こたえのない学校」を立ち上げた。個々人が他者の声に耳を傾け、判断し、共に決定する習慣と能力を育てることを教育の役割ととらえている。それは予測出来ない未来との付き合い方を学ぶことでもある。路上売春をする未成年女性への声かけや、障害児と健常児がともに活動するインクルーシブ教育、若者のためのデジタル・コミュニケーション教育など、個々の事例も読み応えがある。
 教育は単に知識を伝達する営みではなく、人間が生成変化すること自体に関わる。人類学者T・インゴルドの『教育とは何か』では、教育と民主主義的に「生きること」との関係が、思想的な深みをもって論じられる。
 同書は大学論としても鋭い。近年の大学は民主主義的な責任や真実よりも企業的な利害や新規性を優先させる組織となり、共同体としての機能がすっかり弱まった。それどころか、民主主義と教育の断絶を促す場にもなっている。そのことへの反省が率直に語られると同時に、処方箋(しょほうせん)も示される。試行錯誤しつつも、教育は未来へと向かう。 
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ふじわら・さと 一般社団法人「こたえのない学校」代表理事▽Tim Ingold 1948年生まれ。イギリスの人類学者。著書に『ライフ・オブ・ラインズ』など。古川不可知訳。