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「美術館強盗事件簿」書評 絶えぬ犯罪、多い共通点に驚き

評者: 酒井正 / 朝⽇新聞掲載:2026年03月07日
美術館強盗事件簿: 10ヵ国10事件の顚末 著者:フィリップ・デュラン 出版社:草思社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784794228178
発売⽇: 2026/01/27
サイズ: 13.1×18.9cm/360p

「美術館強盗事件簿」 [著]フィリップ・デュラン

 昨年もルーブル美術館で強盗があったが、美術館に収められるような美術品は基本的に「一点もの」なので、盗んだところで正規の市場で売り捌(さば)くことはできない。それなのになぜ盗むのだろうと疑問に思っていた。お金が目当てなら、闇市場で取引するか、盗んだ美術品を人質に身代金をゆすり取るしかない。ただし、その場合はいずれにしても市場価値ほどの額は得られないが。それとも、換金が目的ではないのだろうか。
 さて、題名の通り10カ国の美術館で起きた強盗事件を紹介する本書。盗まれた品々は、モナ・リザからムンク、ゴッホまでと幅広いが、事件には驚くほど共通点があるように評者には感じられた。第一に、どのケースでも美術品はあっけないほど簡単に盗まれてしまうということ。推理小説のような込み入ったトリックなんてないのだ。第二に、盗品はしばらく時間が経つと表に出てくることが多いということ。それが発端となって当局に尻尾をつかまれ、最終的に美術品の返還につながることがある。結局、闇市場だけでは売買は完結しないのですね。このことからもわかるように、極めて個人的な所有欲に基づいた強盗もないわけではないが、大概はやはり換金目的なのだ。
 とはいえ、現代ではデータベースが発達しているので、盗品は昔より発覚しやすくなっている。それにもかかわらず、美術館への強盗はなくならない。背景には、美術品の市場価値が高まっているにもかかわらず、いまだ刑が軽い事実があるからだと本書は示唆する。
 美術館の強盗事件には、もう一つ共通点がある。美術館に強盗が入ると、人々の注目を集め、見学者が増えることだ。不謹慎にも美術館と強盗は切っても切り離せない関係にあるように思えてしまったが、たしかに評者もそれらの美術館に魅せられて、訪ねてみたくなった。そうか、この本は、強盗事件から見た美術館案内だったのだ。
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Philippe Durant 1960年生まれ。仏のジャーナリスト、ラジオ番組の司会者。漫画のシナリオや小説も手がける。
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神田順子、田辺希久子訳