ISBN: 9784758414982
発売⽇: 2025/12/15
サイズ: 13×19.4cm/216p
「ブーズたち鳥たちわたしたち」 [著]江國香織
アメリカ北東部、ロードアイランド州プロヴィデンス。絶品のクラムチャウダーを食べるためにこの地にやってきた恵理加が、お目当てのレストランに赴くところから物語は始まる。粋なシチュエーション。恋の予感。
でも、始まって早々、物語には奇妙な要素が見え隠れする。得体の知れないウェイター、ルークと、彼の保護者のような青年アンディ。boozeと呼ばれるルークとその仲間のことを、アンディは「人間じゃない」という。彼らの正体は?
日本に出自をもつというboozeたちのことを調べはじめた恵理加の得た情報の中に、「エンコ」や「ブナガヤ」という文字を見つけて、私の胸は高鳴った。まさか江國作品に、妖怪の名前が出てくるなんて。
ルークたち一族を「野生動物」とみなし、ペットのように可愛がりつつ庇護(ひご)するアンディたちの、微妙に父権主義的な態度の描写はさすがだ。対して日本では、人々の前に現れる異類のものたちの兆候は、ブームとして消費されつつも曖昧(あいまい)に受け流されてしまう。どちらも、さもありなん。
それにしても、彼ら異類のものたちはなぜ、陰に日向(ひなた)に人間界に関与してくるのか。音や雨や鳥たちの力を使って、彼らは人間たちを解放しようとしているのだ。けしかけ、孕(はら)ませ、蠢(うごめ)かせ――ほらもっと自由に、ためらうことなく、生きろ、生きろ、生きろ。
「それってつまり野性だよね」「うん。これってほんとに、断然野性」
同性カップルである真昼と弥生のやりとりに、そうかあ、と思う。粋でも無粋でも、愛とか人生とかいうものは元来野性で、それを真摯(しんし)に突き詰めていくと、人間の枠の外へ突き抜けていくんだ。私たちを動かす、得体の知れない力の方へ。
それに薄々気づきながら、知らんふりをして、私たちは日々生きていく。そんな人間たちの生を見守り、からかい、言祝(ことほ)いでいる、それが素晴らしき妖怪たちなのだ。
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えくに・かおり 1964年生まれ。小説家。2004年に『号泣する準備はできていた』で直木賞。ほかに『犬とハモニカ』など。