ISBN: 9784815812263
発売⽇: 2026/03/02
サイズ: 15.7×21.7cm/346p
「アメリカはなぜイスラエルを支援するのか」 [著]佐藤雅哉
アメリカの保守系コメンテーターで、熱心なトランプ支持者だったタッカー・カールソンが、トランプ大統領と袂(たもと)を分かったという。イラン戦争に反対してのことだが、曰(いわ)く、「トランプはイスラエルの奴隷となった」(ニューヨーク・タイムズ紙、5月2日)。アメリカ・ファーストを主張するMAGA派にとって、米経済を圧迫するイラン戦争は、イスラエル・ファーストに見える。
イスラエルは冷戦以来「現状変更勢力に対する防波堤」として機能する、「戦略的資産」であるという議論と、アラブ諸国との関係を考慮すればむしろ「戦略的負債」に他ならないという国際政治学者ミアシャイマーらの議論は、米国内で長く対立してきた。その経緯を、本書は丹念に追う。イスラエルの核開発や入植に米政権要人が常に無条件で首肯したわけではないとの指摘は、今では想像しがたく、驚きだ。
特に本書の視線は、イスラエルが米の「内側」化される過程に注がれる。「近代化のエージェント」たるヨーロッパ・ユダヤ人が建国するイスラエルは、入植社会によって形成された北米と等値とされた。ベトナム戦争の失敗に苦しむ米社会に、イスラエル特殊部隊の鮮やかな人質解放作戦の成功が「カタルシス効果」を与える。「対テロ戦争」の同盟相手としてのイスラエルというイメージは、米国同時多発テロ事件で定着した。ワシントンにホロコースト記念博物館が建設され、ハリウッド映画ではパレスチナ人がテロリスト視される。LGBTに優しいイスラエルは、自由と民主主義の優等生にも見える。
興味深いのは、オスロ合意を契機に経済関係を国際的に広げたイスラエルがハイテク産業を発展させ、「スタートアップ・ネイション」として注目されたことだ。和平としてのオスロ合意が頓挫する一方で、新自由主義のビジネスモデルとしてイスラエルが国際的関心を集めているのは、なんとも苦い現実である。
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さとう・まさや 1981年生まれ。愛知県立大准教授(アメリカ史)。本書が初の単著。共著に『「法-文化圏」とアメリカ』など。