ISBN: 9784622098119
発売⽇: 2025/12/18
サイズ: 19.4×2.6cm/496p
「ブラック・スノウ」 [著]ジェームズ・M・スコット
爆撃機部隊の司令官カーティス・ルメイの作戦計画が、「数千の航空軍兵士」に説明されたのは、1945年3月9日のことである。サイパン、テニアン、グアムの各島で、部下の指揮官らが「今夜は、東京以外に目標はない。すべての爆弾が東京の内側に投下される」と言い、攻撃高度もかなり低くなると告げた。搭乗員たちは、自殺攻撃に等しいと愕然(がくぜん)としたという。
その夜、三つの島の基地から爆撃機325機が飛び立ち、「焼夷(しょうい)地区一号」と名付けた東京低地の「可燃性の高い地区」を目指し、夜の闇に次々と溶け込んでいった。
本書は、3月10日の、いわゆる東京大空襲を、アメリカ軍の戦略部門、日本の庶民の戦争体験という二つの側面で描写している。軍事を軸とするノンフィクション作家の筆は、焼夷弾による非戦闘員の大量殺戮(さつりく)で戦争終結を図る構図を、類書にない形で浮かび上がらせる。徹底した取材と深い人間洞察によって、初めてその構図を根本から理解できるように思える。
特に残酷さを感じるのは、都市を爆弾で焼き尽くし、銃後の市民を多数死なせ、敗戦への道を加速させようとの戦略である。第1次大戦にはなかった戦時思想で、これらはドイツのロンドン攻撃、イギリスのハンブルクやドレスデン攻撃にも見られるのだが、本書はさりげなく、「今度の大戦では日本が先陣を切り、二年にわたって野蛮な作戦を展開」と描いている。日本は268回の重慶爆撃を行ったという。
著者は、都市爆撃が軍事的に有効性を持つことを論証しつつ、戦争の悲惨さを具体的に視覚化するので、本書自体がメッセージを持つ。被災者の過酷な体験を、ルメイという軍人の戦略観と個人史に絡ませる記述は、日本人の戦争観に訴える点が多い。
本書は、東京の被害の実相を人類史に刻んだ。1665トンの焼夷弾を投下され、わずか数時間で約10万人の死者が出た。重い数字である。
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James M. Scott アメリカの軍事史家、ノンフィクション作家。本書では、故早乙女勝元氏のインタビューも行った。
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染田屋茂訳