三代にわたる警察署長が長年の事件を解決するスチュアート・ウッズの『警察署長』、祖父、父、孫の三代の警察官の捜査を描く佐々木譲の『警官の血』など、警察小説と大河小説は相性がいい。事件の調査が長期化すればするほど物語性が増して面白くなる。捜査の停滞こそが実は小説としての厚み(人物像とドラマ性)を生み出すからだ。
『百年の時効』は昭和四十九年(一九七四年)に起きた「佃島一家四人殺傷事件」を平成、令和の各時代において警察官が追及していく警察捜査小説である。
物語は令和六年、ある老人の変死体の発見から始まる。警察にあてた手紙があり、そこで佃島事件を告白しているのだが、謎も多かった。現場に臨場した葛飾警察署の若き女性刑事、藤森菜摘は半世紀以上にわたる捜査資料を手渡される。
こうして時間は過去にとび、昭和四十九年の昭和編に移り、当時の刑事たちの佃島事件捜査が緻密(ちみつ)に描かれるのだが、そこで浮上してくるのが昭和二十五年に起きた函館一家惨殺事件。さらに平成元年の平成編では、別の刑事たちが事件関係者の因縁を戦前の満州国での政治結社にまで探し求める。まさに昭和百年の深層を掘り下げる構成だ。
推理小説としてのひねりもどんでん返しもあり読み応え充分(昨年各誌のミステリ・ベストテンの上位を賑〈にぎ〉わせた)。各時代を彩る有名事件の数々も紹介されるし、人々の生活や価値観も語られて懐古趣味もたっぷり。昭和の魂をもった刑事たちの熱き執念と、令和のクールな女性刑事の科学的捜査に基づいた必死な追及の対比も魅力的。刑事以外の人物像も深く、復讐(ふくしゅう)と家族愛という主題も強力で、作品の密度も濃い(一月に大藪春彦賞、今月吉川英治文学新人賞に決まった)。『警察署長』『警官の血』と並ぶ名作になるかも。=朝日新聞2026年3月14日掲載
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幻冬舎・2310円。25年8月刊。10刷3万7000部。担当者は「昭和100年を題材にしたタイムリーさと、それに見合う重厚感が評価されているようです。強烈に刺さった読者の反響も追い風になった」。