1. HOME
  2. インタビュー
  3. 「イラン現代詩を読む」現代詩手帖で特集 「詩の国」の素顔に触れて 

「イラン現代詩を読む」現代詩手帖で特集 「詩の国」の素顔に触れて 

フォルーグ・ファッロフザードの第4詩集「新たなる生」=鈴木珠里氏提供

 石油や軍事の文脈で報じられることばかりのイラン。どんな人がどんな文化の中で生活しているのか、詩を通じて理解できることがあるのではないか。そんな願いから「現代詩手帖」2月号で「イラン現代詩を読む」という特集が組まれている。

 出本喬巳(いずもとたかみ)編集長は「ペルシャ語の詩を読む会」に参加してきた。会を催す翻訳家の中村菜穂さん、鈴木珠里さんの「イランの素顔を伝えたい」という熱意に接して企画は生まれた。

 冒頭は中村さん、鈴木さんと詩人・岡本啓さんの鼎談(ていだん)。「詩の国」と言われる多言語・他民族のイランで、ペルシャ語詩がたどってきた歴史をわかりやすく解説している。イラン・イラク戦争停戦翌春のモノトーンの街で、書店の中央を飾っていたのが美しい装丁の古典詩集だったことなど、市井の人々と詩との近しさが伝わるエピソードも興味深い。

 「現代詩を読む」と銘打ってはいるが、紹介されているのはオマル・ハイヤーム(1048~1131)から、いまも詩集が占いに使われるハーフェズ(1390年頃没)、ギャルース・アブドルマレキヤーン(1980~)の作品まで幅広い。

 とくに光を当てたのはソフラーブ・セペフリー(1928~80)と、31歳で事故死したフォルーグ・ファッロフザード(1934~67)。セペフリーの作品は、アッバス・キアロスタミ監督の映画に着想を与えたことでも知られる。その叙情性は日本の読者も親しみやすい。

     ◇

 「友だちの家はどこ?」明け方、馬に乗った旅人が尋ねた。/空は一瞬、静止した。/通りすがりの男は、唇に銜えた光の枝を砂の暗闇に委ね、/白楊の木を指さして言った。//「あの木の手前、/神の眠りよりも蒼蒼とした庭園の小道がある。そこでは愛が誠実さの羽根と同じくらい青い。/※以下略」
 「住所」(中村菜穂訳)から

     ◇

 ファッロフザードは、社会や家庭の壁に阻まれながらも個人としての自分を詠んだ。岡本さんは米国の有名な“引きこもり詩人”になぞらえて「閉じこもっていたエミリー・ディキンソンがドアを蹴破って出てきた」ような印象を受けたという。

     ◇

 人生とは恐らく/毎日女が買物カゴを持って通るような一本の長い道/(中略)/人生とは恐らく、学校から戻ってくる子供/人生とは恐らく、セックスの間のけだるさの中で煙草に火をつけること
 「新たなる生」(鈴木珠里訳)から抜粋

     ◇

 寄稿も充実している。テヘラン大学で日本語を教えるアヤット・ホセイニさんの論考「イランにおける日本の俳句受容史」によると、セペフリーも彫刻を学ぶため60年に来日していて、世阿弥の「敦盛」などをペルシャ語に訳している。そのあたりから日本の俳句のペルシャ語訳も読まれ始めたという。

 「この2月号、現地のお世話になった人たちに届けられない状況が続いています」と出本編集長。「事態が一線を越えてしまった今、そこに生きる人をまず知るひとつのすべとして、読んでいただけたらうれしいです」(藤崎昭子)=朝日新聞2026年3月18日掲載