映画「未来」黒島結菜さん・北川景子さんインタビュー 湊かなえ原作、絶望に見いだす禁断の光
――子どもの貧困や虐待、いじめなどの社会的なテーマが描かれた原作の『未来』を読んだ感想から教えてください。
黒島 つらくて苦しい描写が多くてなかなか読み進めることは難しかったのですが、ミステリーとしてのテンポ感があったので、あっという間に読み終わりました。読後は今まで感じたことのない気持ちになって、この原作が込めた思いを映画で多くの人たちに届けたい。本当に大事に映画化しないといけないと思いました。
北川 私は湊さんの作品が好きなので、『未来』が発売された2018年に読んでいて。今回、このお話をいただいてから、忘れているところもあるかなと、読み返しました。原作はいろいろなキャラクターの目線で書かれた構成になっていて、湊さんの作品を読んでいていつも思うのですが、ザラッとする感覚があって、胃の中に重い石が入ってくる感じがします。
「イヤミス」とよく言われますが、攻めた内容のようでいて現実に起きている話だということが心に残るんですよね。『未来』の章子や、私が演じた文乃も、こういう境遇にいる人たちは実際に世の中にたくさんいる。口にして言わないだけで、身近にそういう方がいてもおかしくないと思いながら読むので、余計にズシッとくるんです。原作は当時からすごく湊さんらしい作品だなと、映画化するとどうなるのかなと思っていました。
――映画の初号試写で、黒島さんは湊さんに会ったそうですね。
黒島 試写でもお会いしましたし、撮影現場にも何度かいらっしゃって、あたたかく見守ってくださいました。「ありがとうございます。頑張ってください」という言葉を何度もかけてくださったことが嬉しかったです。
――北川さんは本作のほか、湊さんの『落日』(角川春樹事務所)を実写化したドラマもありました。
北川 そうですね。今回は現場ではお会いしていないのですが、湊さんには「落日」の際にお会いしました。ドラマだけではなく、朗読の収録現場もあって、その時も来てくださって。映像化するにあたって、原作にはない映画での独特な表現をするにしても、「ぜひぜひ」と言ってくださって、とても寛容な方だという印象があります。
――黒島さんは教師の真唯子役、北川さんは章子の母の文乃役ですが、役作りで工夫したことはありますか。
黒島 真唯子は両親に捨てられましたが、祖母に大事に育ててもらった感謝があるので、強く生きてこられたととらえて演じていました。どん底に落ちた時には、坂東龍汰さん演じる原田勇輝が何かと彼女を気にかけてくれる。ちょっと気にかけすぎかなと思うくらいでも、手を差し伸べてくれる人が身近にいると、心強いんですよね。だから、おせっかいに接していくということも、必要なことでもあるのかなと感じています。
北川 文乃は、父親から性的な虐待を受けていることで、人格形成がなされる大事な時期にきちんとした形で愛されてこなかった人物。難しい役柄だなと思いました。体験したことがないので、そういう方の手記やブログを読んだり、ドキュメンタリーを観たり。そうして気持ちをなるべく重ねて演じていました。文乃は自分のことも大切にできないので、家庭を持っても夫とうまくやっていけず、娘を守ることができないのだろうと。昔から虐待は連鎖していくと言われていますが、その連鎖を断ち切ることは難しく、社会でも受け皿はあっても、自分が当事者だとは言えないこともあると、今回わかりました。
――映画では、章子が文乃のためにマドレーヌを焼くと、文乃が人間らしくなってくるところにもグッときます。
北川 マドレーヌのシーンはちょっと涙腺が崩壊しますよね。
――重いテーマではありますが、撮影中につらくなるようなことはありましたか。
黒島 どちらかというと真唯子は強く前に進んで、引っ張っていきたいという役どころだったので、共演したみなさんのお芝居を受けて感じるものがすごくありました。本当に抜け殻のようになっていた北川さん演じる文乃に「どんな声をかけてあげたらいいんだろう?」と思うぐらい、お芝居でそういう姿を見られたのは、私が役を演じるうえでもすごく心に刺さって。目の当たりにした時に、自然と「どうにかしなくては」という気持ちがわいてきました。
北川 映画では、自分自身も事情を抱えながら、すべての人の状況や思いを受け止めて行動する黒島さんの役が一番大変だったはずですが、いつも現場では本当にニュートラルな状態でいて。撮影の時も安定していて、その器の大きさをリスペクトしています。私は撮影中もふざけてしまうんですよ。自分が演じる役が大変だからとそのままでいるタイプではなく、撮影の合間は役のことを考えない。いろいろな話にいつも付き合ってくれて、楽しい現場になりました。
――映画では「手紙」が心の支えになる重要な役割となっていますが、普段、おふたりは手紙を書くことはありますか?
黒島 映画では、手紙の力は大きかったですよね。章子にとっての心の拠りどころになっていました。私自身では、普段、贈り物をする時にひとことメッセージを添えたくて、手紙を書くことはありますね。あとは重要なことを伝えたい時に、手紙を書くことはあります。
北川 残暑見舞いなどの季節の挨拶では、一筆書くことがありますし、感謝の気持ちを込めたお礼状なども書くことがあります。手紙を書く機会は多いかもしれないですね。
――今回、映画に出演されたことによって、新たに気づきを得たことは?
黒島 私は教師の役だったので、子どもたちの目線が印象に残っています。教壇の上に立って子どもたちと向き合っていると、目の近さや見られている意識がすごく芽生えました。実際、家にも子どもがいて、よく大人を見ているなと思うことがあります。子どもは大人の姿を見て成長していって、中学生や高校生と進学していくにつれて、やっと自分というものを固めていく感じがしていて。なので、本当に見られている意識を大事にしたいと思いました。
北川 今までは、例えば虐待やいじめといった事件をニュースで知った時に「どうやったらこの子たちを救えるんだろう」と思っていました。ですが、文乃の役を演じて、救いの手が必要なのは子どもだけではなく、そういう子どもの親もまた苦しい体験をしていると知って。子どもの愛し方がわからない、育て方がわからないところから始まっていることがある、と理解できていなかった面がありました。
だから、そういった子どもの事件の背景には、親もSOSを出していることがあると気づいたので、事件の見方も変わってくるなと。手を差し伸べなくてはいけないのは子どもだけではなく、大人もそうなのだということを、自分のこととして体験できたのはいいことだったと思います。
――この映画を通じてどんなメッセージを届けたいですか?
黒島 この作品によって、こういった現状があることを知るきっかけになるといいなと。人に手を差し伸べるには、自分が健康でいないとできないこともあるので、まずは自分を大切にして癒やしてくれるようになったらいいなと思います。
北川 「自分に何ができるんだろう?」という気持ちになることは誰しも経験があるかもしれませんが、本当に平凡に生きているだけだと思っている人だとしても、誰かの希望になっていることがあったり、人生が変わるきっかけになることがあったり。映画では文乃にとって、松坂桃李さんが演じる夫の佐伯良太の存在がそうでしたが、みんなが救われる存在になり得るはず。一人ひとり、生きているだけですごく価値があるんだと思ってもらえたら嬉しいですね。
――ところで、おふたりはお気に入りの本はありますか?
黒島 ずっとお気に入りの本は、駒沢敏器さんの『地球を抱いて眠る』(NTT出版/小学館文庫)というエッセイです。世界中のさまざまな場所に行った先で、出会った人や土地についての体験などが書かれているのですが、知らない世界を一気に広げてくれて、一緒にその場にいるかのような気持ちになって、読み終わったあとにリラックスできて。いつでも読めるように、すぐ手元に取れるようにしています。
北川 最近は、久しぶりに村上春樹さんの『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(新潮文庫)を読みました。この原作の舞台公演に行く機会があって、とても良い舞台だったんです。もともと村上春樹さんの作品はほぼ全作読んでいているので、舞台を観て懐かしくなって、また買い直して。そして、まだ読んでいる途中なのですが、映画「爆弾」を観て原作が気になって、原作の小説(講談社刊)を買って読んでいます。
黒島 私は出演させていただく作品の原作はいつも読ませていただくのですが、どちらかといえば小説よりも、誰かが体験したことを綴っているエッセイを読むのが好きですね。先ほどお話しした『地球を抱いて眠る』は、小説が好きな人でも、物語のような構成なので読みやすいと思います。
北川 そのエッセイ、私も読んでみようかな。読みたいなと思う本はたくさんあって、いつか読もうと思って買って置いておくと、どんどん本が積み重なっていって……。
黒島 わかります(笑)! あとは、絵本が好きです。大学生の時には、幼少の頃に好きだった絵本をあらためて買ったこともあって。絵本は、短い中にも伝えたいことが明確にあって、メッセージ性がありますよね。ある時、「絵本を原作にした短編映画とか撮れないのかな?」と思ったことも。絵本には、無限の可能性がある気がしています。