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映画「廃用身」主演・染谷将太さんインタビュー 信念か狂気か「画期的な医療」に突き進む医師

染谷将太さん=junko撮影

(C) 2025 N.R.E.

「しばらく頭の中で整理がつかなかった」

――本作は医師でもある久坂部羊さんの経験から生まれた小説ですが、原作を読んでみていかがでしたか? 

 恐ろしいほど説得力があって、どこまでがフィクションで、どこからドキュメンタリーなんだろうと思ってしまうほどのストーリーと描写に衝撃を受けました。しばらくは頭の中で整理がつかなかったのですが、だからこそ胸をえぐられるようなことや考えさせられることもあって、何とも言えない気持ちにさせられたと同時に、とても味わい深い作品でした。

――原作が発売されたときの宣伝文句が「映画化、絶対不可能!」だったそうですが「挑戦してみよう」と心を動かされた理由を教えてください。

 漆原を演じる難しさと不安はあったのですが、もともと𠮷田(光希)監督の作品が好きだったので、いつかご一緒できたら嬉しいなという気持ちが強かったです。𠮷田監督とならこのハードルを一緒に越えられるんじゃないかという思いでこの作品の世界に飛び込めたことが、不安が払拭された一番の理由であり、挑戦したいと思わせてくれるきっかけでした。

――漆原は「治る見込みのないリハビリを続けるよりも、麻痺した腕や足を切断する可能性に賭けたい」と、手足を切断する「Aケア」を推奨します。理想を追い求めるあまり、合理性と狂気の危うい狭間へと踏み込んでいく漆原をどんな人物ととらえたのでしょうか。

 撮影が始まってから、実は漆原はシンプルな人で、患者さんを麻痺から解放する「Aケア」の普及が自分の使命だと信じていることに気がつきました。なぜなら、漆原のセリフのすべてが「Aケア」を普及させる言葉だったんです。漆原は患者とご家族と善意で誠実に向き合って、より良い高齢社会のためにより良いケアを自分の中で見つけた結果、それが革新的なものだった。誰もやらないことではあるけれど、それを突き進めることで、より良い未来がきっと築かれるであろうという信念を持った人間で、その思いをひたすらピュアに持っている人物だととらえました。

自分を信じて突き進んで崩壊する

――漆原を演じていてどんな感情がわきましたか? 

「かわいそう」という言葉が適切かは分かりませんが、ちょっと切ないと言いますか。決して「悪い人」ではなく、自分の信念を突き進んだ結果、一線を越えていることに彼自身が気づいていなかったというのがとても虚しく悲しくもあって。それは演じる上でも感じていました。 

 誰もやったことがないことを成し遂げようとする人って、きっと孤独になっていくんじゃないかと思ったんです。自分を信じて突き進んだ結果、自分自身が崩壊していくのは、医師に限らずいろいろな場面で起こりうることだろうなと思ったので、まずは一人の医師の、一つの症例のような人生を演じることを大事にしようと思いました。

――患者さんや家族に「Aケア」の説明をする際、瞬きをしなかったのが印象的でした。

 漆原を演じる時は、動揺や緊張を排除するために瞬きをしないように決めていました。でも、セリフも多く医療用語も多いので、自信を持って患者さんの前に立てるか、日々、戦いでした。

――作中、漆原の幼少期について触れるところもありました。漆原の持っている別の一面についてはどう考えますか。

 僕は漆原自身の幼少期の記憶は曖昧で「まぁ、そんなこともあったのかもな」くらいの気持ちで演じていました。だんだん漆原が崩壊していくターンに入った時、意外と自分から崩壊しに行っている感覚があったんです。サイコパスではないけれど、紙一重の危うさを持っていて、完璧な自信があったものが一気に崩れたことで「もしかしたら俺ってそういう人間なのかもしれない」という方向に行ってしまい、自分で自分を信用できなくなっていく。だけど常にベストを求める人なので、それを求めた結果のラストにつながるのかなと思いました。 

―― 両脚と左腕の麻痺に苦しみながらも、漆原の治療で人生を取り戻した岩上(六平直政)など、様々な症例や患者とその家族のケースが出てきましたが、染谷さんが特に心に残ったものは何でしたか?

 岩上さんのように、Aケアをしたことでちょっと元気になった人を見た他の患者さんが「私もやりたい」とそこに希望を求めてすがる姿は、個人的には何とも言えない気持ちになりました。Aケアによる改善もまだ一例しかないですし、狭いコミュニティの中の話でもあるのですが、目の前で起きている“救い”にすがろうとするのは、ある種人間らしいなと思いました。 

「自分ならどうするか」役者みんなで考えた

――映画を観終わった後、自分の親や近しい人が同じことになったら、もしくは自分が将来そうなったら……と考えています。「介護」や「認知症」「高齢者医療」という今の日本が抱える問題がテーマになっていますが、作品や演じた役を通して考えるようになったことはありますか?

 今回は撮影に入る前に役者の皆さんが集まって、原作には書かれているけど映画では描かれていない症例の一つをピックアップして、その患者さんに「Aケアをするべきか、しないべきか」をディスカッションするというエチュードを行ったんです。中には、実際に介護経験がある方や介護施設で働いていた方もいて、その場で皆さんが自分の意見を言葉にして、それを聞いてどう思うかということをしました。撮影が始まってからも、控室では「自分ならどうするか」「自分の家族だったらどうするか」「もしAケアが現実になったら」という議論が飛び交っていて、手足を切断される患者さん役を演じる方が自分事として真剣に考えていらした姿は印象に残っています。

 その時にふと、現場での意見の交わし合いというのはとても大事な時間だなと思ったと同時に、時代が進むにつれて、より大事な時間になってくるんじゃないのかなと感じたことが自分の中で一番大きかったですね。あとは自分が老いてみないと分からないというのが全てだなと思いました。

「相棒」で演じた役に通じるピュアさ

――倫理観や結末を含め、賛否の分かれる作品になると思いますが、賛否のある役といえば、2002年に放送されたドラマ「相棒」Season1の第5話「目撃者」で、小学生でありながら計画的に殺人を犯すという難役を演じました。子どもながらに理詰めで右京さんたちと対峙する姿は、今作の漆原と通じるものを感じました。

「相棒」は、きっとあの時代でしかできなかったような内容だったと思います。あの時の役も今回の漆原に近いところがあって、善意を持ってピュアに突き進んだあげく人を殺めてしまうという天才少年の役だったのですが、法律用語や完全犯罪の説明など言ったことのないセリフばかりで、ひたすら緊張してなかなか言えなかった記憶がありますね。 

――漆原先生も「患者さんを救いたい」という善意を感じるからこそ「この人なら信じられる」という説得力があるといいますか。

 完璧に理詰めで話すことは、漆原先生を演じるうえでお芝居として成立させなきゃいけないところでした。難しいセリフや医療用語が多かったのですが、それをちゃんと自分のものにして、人に隙を与えずに説明していく難しさを痛感しましたね。監督とも「漆原のように、頭が切れて理詰めで説明できる人って、周りに有無を言わせない、言わせる隙も与えないですよね」という話になったのですが、漆原の患者さんや家族に対する説明の仕方などにはそういう部分が特に出ると思ったので、それをお芝居でやるのは本当に難しいことでした。自分はどちらかというと、人の弱みを出す方が想像がつきやすいので、漆原が崩壊していく時の方が、自分に素直にお芝居していけばその感情が出やすかったです。

小説を読む時は自分なりに実写化

――さて、読書家の染谷さんにはこれまでも『そしてミランダを殺す』や『歩山録』をおすすめいただきましたが、今回も「人生を変えた一冊」を教えていただけるとのことで!

 『ザリガニの鳴くところ』(ディーリア・オーエンズ著、友廣純翻訳)という世界的なヒット作なのですが、舞台となる川辺の湿気感や霧がかった感じなど、温度感が伝わってくる描写にどんどん引き込まれていきました。サスペンスなので「犯人は誰なんだ」という点も臆測が臆測を呼んで、それが膨らんでいった上でのラストにはとても衝撃を受けました。まるで身内に犯人がいたような気分になり、読後はショックが大きかったです。そういう没入感のある本だなと感動しました。 

――これまでの2作も含めて、ミステリーやサスペンスを読まれることが多いようですが、特にミステリー作品の好きなところは? 

 シンプルにハラハラして驚かされるところも好きですが、そこに人の感情がしっかり説得力が伴った時は、より心をえぐられるなと思います。昔から小説を読む時は、何となく頭の中で自分なりに実写化をしているので、想像がしやすいという点もよく読む理由なのかもしれないですね。