「コット、はじめてのドライブ」
お父さんとの、はじめてのドライブ。どんどん変わっていく車窓の景色を眺めながら、コットはお父さんにたくさん質問をする。お天気のこと、鳥や植物のこと。それから時間の流れのこと。お父さんはさまざまなことを教えてくれる。刻々と姿を変えていく世界に気づいたコットは、この世に変わらないものがあるのかと、尋ねるのだった。
少しずつ、世界の輪郭がくっきりしてくるコット。まだ知らない新しい世界。でも、まったく同じ一日なんて絶対にないし、コットも成長という変化を遂げていくのだ。世界は変わっていく。しかし、お父さんは最後に、ずっと変わることのない大切なことを教えてくれる。
過ぎてゆく時間。移ろう世界。その中で変わらずに存在するものの力強さとあたたかさ。それをたずさえているだけで、人生を勇気を持って歩いていける気がする。もしも、大人になって忘れてしまうことがあっても、愛(いと)おしい記憶や体験は、しっかりと心と身体に刻まれている。父と子のなにげないひとときの中に、揺るがないぬくもりがそっと息づいている。【丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん】
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阿部結著、佼成出版社、1870円、3歳から
「ぼくがぼくであるために」
主人公の亜記は、周囲から女の子みたいだといわれるのがいやで4歳から続けていたバレエをやめた。そして中学生になったのを機会に、男らしく生まれ変わるため野球部に入り、毎日練習に励んでいる。しかし、踊る楽しさを知り、胸が熱くなるほど夢中になったバレエのことも忘れられなかった。親友の眉村に、どちらを選ぶのか迷っているのを指摘され、不安になる。自分さがしをはじめた亜記の、思春期特有の心の揺れがストレートに伝わってきて胸に刺さる物語。【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】
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蒼沼洋人(ようと)作、ポプラ社、1760円、小学校高学年から
「わにおの わのじは どうかくの?」
自分の名前を書けるようになった「さるのすけ」。でも他の文字は、まだ読むことしかできません。友達の「わにお」の名前を書くために、ふたりで町へ文字探しに。「めがね、うどん……」。看板の平仮名を一生懸命読むさるのすけと、わくわくしながら歌うわにお。「♪わにおの わのじは どうかくの~♪」。やがて「わたあめ」のお店を見つけて大はしゃぎ。
文字を習い始めた頃の発見と喜びにあふれた画面を、いっしょに楽しくさまよって。見返しやカバー裏の「あいうえお表」まで遊び尽くして。【絵本評論家 広松由希子さん】
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乾栄里子文、出口かずみ絵、福音館書店、1430円、5歳から
=朝日新聞2026年3月28日掲載