企画展 生誕100年記念「かこさとしの科学絵本」開催 各分野の研究者視点で魅力に迫る
1959年、『だむのおじさんたち』(福音館書店)でデビューして以来、600冊を超える作品を世に送り出してきた絵本作家かこさとしさん。『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店)や『からすのパンやさん』(偕成社)などの物語絵本がロングセラーとして広く知られていますが、『かわ』をはじめとする科学絵本も200冊近く制作しました。
本展監修者で、国立科学博物館植物研究部菌類・藻類研究グループ研究主幹の北山太樹氏は、かこさんの科学絵本の特徴について「網羅性と総合性」を指摘し、このように語ります。
「かこ先生は『かわ』『海』『地球』などの作品群で、注目されやすい例外的な生物や現象に偏ることなく、できるだけ原則的かつ本質的な事柄、普遍的な存在をひとつのシーンで網羅的に扱い、総合しながら描き、1シーンに収めました。初めて科学に触れる子どもたちに、この世界の森羅万象を紹介しようとした、サイエンスコミュニケーションの先駆けともいえる作品が多いのです」
展覧会は第1章から6章まで、6つのゾーンで構成されています。企画展示室に足を踏み入れると正面に見えるのが、地球の中の様子を地表から中心部にわたって描いた『地球』(福音館書店)の見開きの大型パネル。地上を歩く人々や地面に生えた植物のほか、地中に伸びた根やアリの巣の断面が描かれています。パネルには長方形の窓があり、ありし日のかこさんの姿が仕事部屋の椅子に座った状態で投影されています。
大型の写真パネルで再現されたかこさんの仕事部屋は、床から天井まで一面本棚。膨大な資料を収集、参照して制作にあたった、かこさんの科学絵本作りへの姿勢がうかがえます。かこさんが実際に使っていた絵筆や定規、鉛筆削りなども展示されています。
本展の核となるのは第4章「かこさとしの科学絵本」。特に注目したいのは『かわ』にまつわる展示です。
山の雪解け水や雨から生まれた川が、水源となる山から町を経て広い海に注ぎ込むまでを俯瞰で描いた『かわ』は、1962年に月刊「こどものとも」の一冊として刊行されたロングセラー。2016年には、全ページをつなげた『絵巻じたて ひろがるえほん かわ』も出版されています。
本展では表紙の原画と、約7メートルにわたる絵巻版を展示。表紙に描かれた地図とおさげ髪の女の子について、本展監修者の一人で加古総合研究所代表、かこさとしさんの長女の鈴木万里さんはこう話しています。
「表紙を描くにあたって、かこは、ある一場面だけを取り上げて描くことは避けたい、どうしたものかと考えあぐねて、地図を描くことを思いつきました。地図ならば、絵本の本文の絵をすべて描き入れることができるからです。そこで、自分で等高線を引き、絵の通りに地図を描き起こしました。少し古い地図を参考にしたらしく、今では使わない地図記号も描かれているので、探してみてください。
編集の松居直さんは地図だけの表紙を想定していたようで、できあがった原画に子どもが二人描かれているのを見て驚いたそうです。手前の赤いセーラー服姿の女の子は私で、当時、妹が生まれたばかりだったので、妹を男の子に見立てて奥に描いたようです」
監修者の北山太樹氏をはじめ、国立科学博物館の各分野の研究者がそれぞれの専門を通して解説しているのも、本展の大きな特徴のひとつです。たとえば『地球』(福音館書店)の、秋の里山を地中の断面まで含めて描いた場面では、動物研究部の西海功氏、植物研究部の田中伸幸氏と保坂健太郎氏が、それぞれ鳥、植物、きのこについて解説。研究者目線で見た、かこさんの科学絵本の魅力が伝わってきます。
第5章「生物進化を絵本でたどる」では、かこさんが最晩年に取り組んだ未完の大作『宇宙進化地球生物放散変遷総合図譜』(略称『生命図譜』)の複製が展示されています。
縦約150センチ、横約100センチのサイズのトレーシングペーパーを5枚横につなげたものに、宇宙の始まりビッグ・バンから現代までの生物の進化の歴史が細かく描き込まれた『生命図譜』は、鉛筆書きの下絵ながら、その迫力に圧倒される大作。おびただしい数の生物絵からは、かこさんの「生物の進化のすべてを何としても一枚に描きたい」という執念すら伝わってきます。
展示の終盤では、かこさんの科学絵本と国立科学博物館の共通点を紹介。本展を見たあとは常設展示「系統広場」と「地球史ナビゲーター」にも足を運んでみてはいかがでしょうか。
日本館地下1階のミュージアムショップでは、本展の開催に合わせて刊行された『生誕100年記念 かこさとしの科学絵本』(主婦の友社)が先行発売中(一般発売は4月24日から)。科学絵本の初版に付録として折り込まれていた、かこさん自身による貴重な解説も収録されており、かこさんの科学絵本についてより深く理解できる一冊となっています。
子どもたちの“なぜ”に向き合い、生涯をかけて数多くの科学絵本を生み出した、かこさとしさん。研究者の視点で巡る国立科学博物館ならではの展示で、科学の面白さを体感してみてください。