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本屋大賞に朝井リョウさん「イン・ザ・メガチャーチ」 探ってきた「生きる推進力」【発表会詳報】

『イン・ザ・メガチャーチ』で2026年本屋大賞を受賞した朝井リョウさん=斎藤大輔撮影

 『イン・ザ・メガチャーチ』は、ファンダム(とりわけ熱いファンの集団)経済を取り巻く人間模様を描いた小説です。

 あるアイドルグループの運営に参画することになった、レコード会社勤務の久保田、大学での居場所が見つからない久保田の娘・澄香、仲間と若手俳優を応援していたが、突然の出来事で状況が一変する隅川絢子・35歳。小説は3人の視点を交錯させ、世代も立場も異なる三つの視点から、人の心を動かす「物語」の功罪を描き出します。

 朝井リョウさんは1989年、岐阜県生まれ。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。『何者』で直木賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞、『正欲』で柴田錬三郎賞を受賞。ほかの著作に『スター』『そして誰もゆとらなくなった』『生殖記』などがあります。

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自分の中の偏り「本棚の一部に」

 受賞した朝井さんは、以下のように喜びを語りました。

「私、3回目のノミネートで受賞することになったんですけれども、その『正欲』『生殖記』、そして今回の3冊は、私の中でも、ある共通のテーマを実は描いているような作品だと思っています。一言で申し上げますと、『生きる推進力』というものです。生と死が隣同士に並んでいたとして、生の方を選び取る理由みたいなものを探りたくて書いた。私の場合、生きている中で感じるポジティブな感情を描くということにはなかなかならないんです。この共同体の構造、仕組みとかを考えるということ。こういう仕組みだから、こういう構造だから、この立場の人は推進力を感じづらいんじゃないかなっていうことを考えながら小説を書いてきました。つまり、私がこの3作品で書きたかったのは、人間というよりは構造とか現象とか、そういうものだったのかなと思っています」

受賞の喜びを述べる朝井リョウさん=斎藤大輔撮影

「ただ、やっぱり本屋大賞の受賞作を読んでいて思うのは、非常に人間が描かれているということです。この共同体の上で、魅力的な登場人物たちが何かを果たしたり、他者や社会を変化させたり、自分が変化したり、そういう作品がたくさん受賞してきたのかなと思っています。なので、私はずっと、自分は小説と呼ばれるものの手前で,言葉をこねくり回しているのかなと思っていました。かつ、自分でも自覚があるんですが、私の作品、読みながら誰かをエンパワーメントできてるかって言われたら、ちょっとうなづきづらいような部分もありますし、この感情を紙の上に引きずり出してもいいのかなって」

「読者の方々からすると、時間とお金を払ってくださっているわけですから、その上で何か届けるものがその感情で大丈夫なのかなということは、書きながら自分でも迷う瞬間がたくさんあります。もちろんこの本屋大賞、とっても嬉しいんですけれども『一番売りたい』という冠、コンセプトの言葉の下に置いていただける本が私の作品で大丈夫なのだろうかということも結構考えます。人によっては、何か不適切な偏りがすごくあると思うのではないか。そして自分自身もそういうことを自分の作品に対して思ったりするのですが、一人で書く小説というものは、偏りがあってこそなのではないか。小説はどんな編集者と組んでも、最終的には本当にたった一人で書いている。どうしても自分の中の偏りであったりとか、自分の極北みたいなものが作品に反映されてしまうと思うんですよね。自分たった一人が書いているものなので、ものすごく極端な作品にどうしてもなると思います。そしてそれは小説だよなと感じます」

「特に今回の本屋大賞は、本当にジャンルレスな作品がノミネートされますし、特に他の文学賞と比べても、バラバラなそれぞれの極端というものが横並びになっていると思います。こうやって自分が絶対に描けない作品を隣に並べてくれているから、自分も自分の中の偏りを大切にできるんだなと感じました。一冊の中で自分の偏りを解決させるのではなくて、自分とは全く異なる偏りを持った方々の作品が、一つ隣同士に並んでいるということがとても大事なんだなと感じました。なので、一冊のたくさんの書き手の極端、極北、偏りが集まった本というものが並ぶ本棚、書店という場所を守ってくださっている皆様に改めて感謝を申し上げたいと思います。これからも私はこの感情を壁の上に引きずり出してもいいのかなと迷いながら、でもその偏りを非常に大切にしながら、自分が絶対に書かない、書けない作品を描いてくれる同業者の方々がいらっしゃるから、作品を書いて、本棚の一部になっていければいいなと思っております。ありがとうございました」と喜びを語りました。

2025年本屋大賞の阿部暁子さん(右)から花束を受け取る朝井リョウさん=斎藤大輔撮影

「心を揺さぶられる作品」

 プレゼンターとして昨年『カフネ』で本屋大賞を受賞した阿部暁子さんが登場し、朝井さんに花束を手渡しました。

 阿部さんは「これから『イン・ザ・メガチャーチ』を手に取る人がたくさんいると思います。読み進めるうちにもしかして、推し活をしていたら自分のことを思いをはせたりするでしょうし、自分の愛とか推しという言葉でふんわりくるんでいたものが暴かれたり突きつけられたり、すごく深く感じられたりという思考の揺さぶりを体験する。この心を揺さぶられるというのは物語を読むときの大事なことです。この本がもっと売れて売れて、本当に今、書店さんを取り巻く現状は厳しいし、正直少し先の未来も不安になってきますが、書店員さんたちがとびきりの笑顔になってくれることを願っています」とスピーチしました。

2位以下の投票結果

 2026年本屋大賞は、2024年12月から2025年11月までに刊行された日本の小説を対象に、全国の書店員698人が投票してノミネート作10作を決定。470人が参加した2次投票で大賞を選びました。2位以下の順位は以下の通り(敬称略)。

2. 佐藤正午『熟柿』KADOKAWA

3. 村山由佳『PRIZE―プライズ―』文藝春秋

4. 夏川草介『エピクロスの処方箋』水鈴社

5. 湊かなえ『暁星』双葉社

6. 野宮有『殺し屋の営業術』講談社

7. 瀬尾まいこ『ありか』水鈴社

8. 森バジル『探偵小石は恋しない』小学館

9. 櫻田智也『失われた貌』新潮社

10. 伊坂幸太郎『さよならジャバウォック』双葉社

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