ISBN: 9784296121045
発売⽇: 2025/09/03
サイズ: 18.8×3.5cm/448p
「イン・ザ・メガチャーチ」 [著]朝井リョウ
ヤバい。読みながら何度も心の奥でうぐぐぐぐっ、となる。そもタイトルからしてヤバくないですか? 静謐(せいひつ)な祈りの場のチャーチではなくて、ライブ会場でウェーイ的なメガチャーチ。なので、心して読んだ。というか、朝井さんの物語を読む時は、私はいつも心して読んでいる。
物語は、三人の視点で語られていく。レコード会社勤務の久保田慶彦47歳、武藤澄香19歳、隅川絢子35歳。澄香は久保田の娘で、親の離婚後、母親と暮らしている。
アイドルグループの「ファンダム(とりわけ熱いファンの集団)の熱量を高め続けることに特化したチーム」の一員となった久保田。自意識高い系の仲間に加われず、大学での居場所が見つからない澄香。若手俳優のファンダムだった絢子。
三人のうちの、誰に共鳴するのかは読み手によるだろう。私は久保田のパートにめっちゃ引き込まれました。「今後(自分の人生に)還(かえ)ってくるのは、これまでやってきたことよりも、これまでやってこなかったことのほうなのかもしれない」という冒頭の彼の言葉は、読後も棘(とげ)のように刺さっている。
現在進行形のファンダムである澄香と、かつてファンダムだった熱量を今は別の対象に向けている絢子は、まるで合わせ鏡のようだ。だから、物語終盤近くの14章を読むとぞくりとなる。巧(うま)いなぁ。
久保田がいるチームを「信徒獲得と教義の布教のため」だとするマーケティングリーダーの国見。それって、選挙に、そして、戦争にも通じるものじゃないか?と思わず鳥肌が立つ。
個人的にツボだったのは、久保田を通して描かれる、ある程度年がいった男性には、気軽にお茶に誘える友だちがいないという指摘と、「(女性たちの)雑談って多分、ケアなんですよ」という久保田が担当するアイドルの言葉だ。深い。
いざ、ぎゅうぅぅっと濃縮された〝いま〟を、読むべし、読むべし。
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あさい・りょう 1989年生まれ。作家。『桐島、部活やめるってよ』でデビュー。13年に『何者』で直木賞。『正欲』など。